2025年12月5日(金)

World Energy Watch

2025年11月12日

 マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツ氏(以下敬称略)は、気候変動、貧困対策と並び疾病の撲滅に取り組んでいることも知られている。3つの世界の課題、疾病、貧困、気候変動は絡み合っている。貧困が疾病の拡大を招き、気候変動は最貧国に大きな打撃を与える。

ビル・ゲイツ氏(ロイター/アフロ)

 貧困と疾病の問題を解決するには経済成長とエネルギーが必要だが、気候変動問題を悪化させないため、ビル・ゲイツは二酸化炭素を排出しないエネルギーの利用拡大を、イノベーションにより実現しようとしていた。

優先課題は気候変動から貧困と疾病撲滅に

 ビル・ゲイツの3つの課題の中での最優先は温暖化問題だった。15年に開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では、イノベーションによる温室効果ガスの排出削減を求め、同時にコスト削減も実現するベンチャー企業へ投資するブレークスルー・エナジー連合の設立を発表した。

地球の未来のため僕が決断したこと
ビル・ゲイツ (著), Bill Gates (著), 山田 文 (翻訳)
¥1,287 税込

 21年には著書『地球の未来のため僕が決断したこと』(日本版の出版は21年8月)を通し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにし「気候変動による大災害」を防ぐ道筋はイノベーションとの考えを改めて示した。

 ところが、ビル・ゲイツは今年11月10日からブラジル・ベレンで開催されたCOP30に先立ち10月28日に発表したゲイツ・ノート「COP30に出席する皆に知ってほしいこと‐気候に関する3つの難しい事実」(A new approach for the world’s climate strategy | Bill Gates)において、主張の〝転換〟を見せた。温暖化への取り組みは依然として重要だが、気候変動が人類の滅亡につながることはないとの立場を明らかにし、資源が限られている以上、最優先課題の貧困と疾病撲滅に資源を振り向けるべきと主張した。

 トランプ大統領はSNSに「ビル・ゲイツがついに気候変動の誤りを認めた。でっちあげの気候変動の戦争に勝った」と投稿した。この投稿に対して、ビル・ゲイツは「ゲイツ・ノートを誤読している」と指摘している。

 ビル・ゲイツは、気候変動が壊滅的な打撃を与えることはないが、温暖化対策を進めることは重要と述べている。ただし、資源を温暖化問題に投入しすぎるのではなく、貧困、疾病に大きく割り当てるのが必要としている。

 トランプ大統領からは賞賛されたが、気候変動の活動家からは、ビル・ゲイツは気候変動の深刻さを理解していないと非難を浴びた。実はビル・ゲイツの気候変動への取り組みは今までも非難の対象になっていた。


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