2025年12月6日(土)

World Energy Watch

2025年11月12日

減らない化石燃料消費と二酸化炭素

 ビル・ゲイツは『地球の未来のため僕が決断したこと』の執筆は新型コロナ(COVID-19)のパンデミックが始まった20年と明かしている。コロナ下でも気候変動問題への支持は変わらないとビル・ゲイツは記している。その後状況はどうなったのか。

 コロナにより、世界のエネルギー消費は落ち込み、二酸化炭素の排出量も減った。ただし、一時的な現象だった(図-1)。

 パンデミックが終わると、途上国を中心に化石燃料の消費は、かつての成長路線に戻り排出量は増え続けている。あれだけ世界経済と生活に影響を与えたパンデミックがエネルギー消費と温暖化に与えた影響は小さい。

 2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするには、経済活動をどこまで縮小し、途上国のエネルギー消費をどう抑制すればよいのだろうか。そう考えると、50年脱炭素は達成が困難な目標だ。

 コロナのパンデミックが終わりに差し掛かった22年にロシアがウクライナで始めた戦争は、エネルギー価格の上昇を通し世界経済に大きな混乱を与えた。温暖化問題への関心は急速に薄れ、インフレによる景気低迷からの回復が多くの国で最大の課題になった。

 インフレは、エネルギー価格上昇に加え再エネのコストを引き上げ、世界中で洋上風力事業の停滞を招いた。これもビル・ゲイツの大きな懸念になったのではないか。

インフレがもたらした再エネの停滞

 ビル・ゲイツは、かねてから火力、原子力との比較では、風力、太陽光発電設備が大量の鉄、セメントなどの資材と重要鉱物を利用することを懸念していた。彼の主な心配は、資材製造時に大量の二酸化炭素が排出され、設備製造から廃棄までを考えると温暖化対策にならない可能性があることだった。

 ビル・ゲイツは再エネ設備だけでは、電気料金の高騰を避けることは不可能なので、全電源を脱炭素化する際には3分の2を再エネ、3分の1を原子力と考え、原子力技術のベンチャー企業、テラパワーも設立した。

 22年からの主要国のインフレは、資材使用量が多い洋上風力を筆頭とする再エネ設備の導入費用を直撃し、欧米、日本での洋上風力発電事業者の撤退を引き起こした(「三菱商事は悪者なのか?洋上風力撤退の決断を数字で検証してみた、ガラガラポンの発想転換が必要な理由」  Wedge ONLINE)。英国の洋上風力事業の落札価格の推移(図-2)が示す通り、再エネ事業の先行きには黄色信号が灯っている。

再エネ電源のコストを考える際には、遠隔の消費地に送電する費用と再エネ設備が発電できない気候条件の時に発電するバックアップ設備の費用が必要だ。図-3がその費用も考えた40年の日本の各電源の発電コストを示している。この費用も今では大きく変動しているはずだ。

 生成AIの利用を支えるデータセンター用電力需要が主要国で大きく増えると予想される時代に、いつ再エネが電源の3分の2を占める時代が来るのだろうか。


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