2026年1月10日(土)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2026年1月10日

2026年、ベネズエラ侵攻の「裏側」にあるもの

 2026年早春。世界を震撼させたニュースが飛び込んできた。ドナルド・トランプ率いるアメリカ軍によるベネズエラへの事実上の軍事介入である。

 主要メディアやリベラルな知識層は、即座にこれに反応した。「またしてもトランプの暴走だ」「国際法を無視した衝動的なポピュリズム」「資源強奪のための21世紀型帝国主義」。紙面にはこうした過激な見出しが躍り、世界の首脳陣は困惑と非難を隠さない。

 しかし、この半世紀、レアメタル・レアアースという「見えない資源」を追い求め、泥にまみれた鉱山の現場から精錬所の暗い熱気、そして不透明な国家間交渉の裏側までを見届けてきた私の目には、その光景は全く違ったものに映っている。

 そこに「驚き」はなかった。むしろ、驚いているのは「世界の側」ではないか。トランプの一挙手一投足を、人格的な危うさや予測不能な性格に帰結させようとする言論空間こそが、現在の地政学的混乱の正体である。

 レアアースという、ハイテクと軍事の動脈を流れる「戦略的血液」の視点から俯瞰すれば、トランプの行動は驚くほど一貫した理詰めの戦略に基づいていることが浮き彫りになる。グリーンランド、中央アジア、そして今回のベネズエラ。点に見えるこれらの事象は、実は「中国による資源独占への反攻」という一本の太い線で結ばれているのだ。

 本稿では、その「資源覇権」というフィルターを通じ、トランプ外交の真意と、その狭間で静かに切り札を磨く日本・南鳥島の現在地を読み解いていきたい。

慌てているのは「資源を商品と勘違いした者たち」だ

 トランプ外交を「暴走」と評する声の主は、往々にして資源の上流構造、すなわちサプライチェーンの最上流部がいかに脆弱な基盤の上に成り立っているかを忘却している。

 レアアースは、もはや冷蔵庫のマグネットや電気自動車(EV)のモーターに使われる「便利な材料」の域を超えている。ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムといった元素群は、現代の精密誘導兵器、極超音速ミサイル、ステルス戦闘機、そして次世代エネルギーインフラの根幹を支える「国家戦略資源」そのものである。

 かつて中国の最高実力者、鄧小平の方針を受けてレアアースの30年以上の歳月をかけて採掘から精錬、そして製品化に至る全工程を自国領土内、あるいは自国資本の支配下に置くことに成功した。

 トランプがホワイトハウスに返り咲いて以来、彼が直面したのは「中国がいつでも蛇口を閉められる」という絶望的な依存関係である。トランプはビジネスマンだ。相手が最強のカード(資源独占)を握っているとき、理屈や理念で交渉しても勝てないことを知っている。

 彼が「暴走」しているように見えるのは、力づくで相手のカードを奪い、あるいは相手の別の急所を突くことで、強引に交渉のテーブルを平準化しようとしているからだ。慌てているのはトランプではない。資源をマーケットで購入できる「コモディティ(商品)」だと信じ込み、安全保障上の武器であることを無視してきた一般のグローバリストたちなのだ。

ベネズエラとグリーンランド――鉱脈の入口を塞ぐ「不動産王」の嗅覚

 今回のベネズエラ侵攻を、人権や民主主義の回復という文脈で捉えるのはあまりにナイーブである。山師の視点で見れば、ベネズエラは「中国のエネルギー貯蔵庫」だ。

 中国は長年、反米左派政権が続くベネズエラに対し、巨額の融資と引き換えに膨大な石油利権を確保してきた。レアアースという「盾」を持つ中国に対し、トランプはベネズエラの石油という「槍」を折りにいったのだ。中国のエネルギー供給源を物理的にコントロール下に置く、あるいは混乱させることで、中国が持つレアアース・カードの効力を減退させる。これは極めて現実的な資源対抗戦略である。

 同じロジックは、かつて世界を失笑させた「グリーンランド購入計画」にも共通している。

 デンマーク領グリーンランドには、世界最大級の未開発レアアース鉱床が存在する。数年前、中国企業がこの地の鉱山開発に食い込もうとした。その瞬間、トランプは「不動産ごと買い取る」という、外交の常識を逸脱した手段で拒絶反応を示した。

「この鉱脈の入り口を中国には渡さない」

 この一念において、トランプの行動は一貫している。不動産業を祖業とする彼は知っているのだ。立地(ロケーション)と所有権こそがすべてであり、一度相手に握られた権利を取り戻すには、戦争か買収しかないということを。

中央アジアの静かなる楔と「習近平会談」への伏線

カスピ海沿岸にそびえ立つ摩天楼。アゼルバイジャンの首都バクー(Ratnakorn Piyasirisorost/gettyimages)

 トランプの視線は、今やユーラシアの深部、中央アジアにも注がれている。

 カザフスタン、ウズベキスタンといった国々は、旧ソ連時代からの戦略金属の宝庫である。中国の「一帯一路」構想によって中国の影響力が及ぶ中、アメリカは水面下でこれらの国々と独自のリサーチ、技術支援、そして開発合意を取り付けている。

 ここでも目的は一つ。「資源の再配置」だ。

 トランプ外交のゴールは、常に「習近平とのディール」に収斂する。彼が行っているベネズエラ侵攻も、中央アジアでの暗躍も、すべては米中首脳会談という巨大な交渉テーブルにおいて、自らの手札を増やすための事前工作にすぎない。

「君たちがレアアースを止めるなら、我々はベネズエラの石油を止めるし、中央アジアの供給ルートも遮断する。それでもやるかね?」

 この問いを突きつけるために、彼は世界中で火種を撒き散らしているように見えるのだ。それは狂気ではなく、冷徹なまでの計略である。


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