見えない地殻変動は、常に内陸から始まる
資源の歴史を振り返ると、世界を揺るがす変化は、いつも周縁から始まってきた。石油は中東から、レアアースは中国内陸部から、そして今――次の震源地として浮かび上がってきたのが、中央アジアである。
中国がレアアース、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンといった戦略鉱物の輸出管理を強化した瞬間、日本の産業界は凍りついた。半導体、EV、再エネ、軍需――どの分野も、中国なしでは成立しない現実が、あまりにも露骨だったからだ。ここで重要なのは、「脱中国」というスローガンが、感情論ではなく生存戦略になった点である。
そして、その代替地として浮上したのが、カザフスタンを軸とする中央アジア五カ国であった。ウラン、レアアース、ガリウム、クロム、マンガン。中央アジアは、単なる資源の宝庫ではない。中国とロシアという二つの巨大重力圏の狭間で、多角外交を生き抜いてきた老獪な内陸国家群なのである。
トランス・カスピ回廊という「もう一つの生命線」
日本が中央アジアに本腰を入れる最大の理由は、資源そのものよりも物流にある。ロシアを迂回し、カスピ海を越えて欧州へと抜ける「トランス・カスピ回廊(ミドル・コリドー)」は、地図の上では美しいが、現実は泥臭い。鉄道容量不足、港湾の老朽化、通関の非効率、水位低下――。
だが、それでも日本がこの回廊に賭けるのは、中国・ロシアという「単一障害点」を回避できる、唯一の陸路代替案だからである。資源は掘れても、運べなければ意味がない。山師の世界では、それを「死蔵」と呼ぶ。
中央アジア諸国が日本に期待しているのは、資金ではない。ましてや、中国型のインフラ爆撃でもない。彼らが求めているのは、資源を掘り、精錬し、産業として育てる技術と時間である。
たとえばカザフスタンは、ロシア製原子炉を選びながらも、日本との重要鉱物協力を並行させている。これは二股外交ではない。主権を最大化するための分散戦略である。日本は、速さでは中国に勝てない。安さでもロシアに勝てない。
だが、「裏切らない」という一点において、中央アジアは日本を評価している。
レアメタルは「掘る者」ではなく「持つ者」が勝つ
2026年以降のレアメタル市場を見通すと、はっきり言えることがある。それは、価格を決めるのは鉱山ではなく、在庫と供給網を握る者だという事実だ。中央アジアのレアメタルは、今すぐ世界を救う量ではない。しかし、中国依存を一割、二割と削っていくには、十分すぎる「逃げ道」になる。
山師の勘で言えば、この地域は「爆発」ではなく、「じわりと効いてくる」。日本に問われるのは、5年後もここに居るかどうかだ。中央アジアの指導者たちは、日本の技術力以上に、関係の継続性を見ている。今日来て、明日去る国はいらない。10年後も同じ顔ぶれが来る国を、彼らは信用する。
資源外交とは、契約書よりも長い時間軸で結ばれるものだ。これは私が、シベリアでも、南米でも、アフリカでも学んできた教訓である。静かな回廊が開いたとき、世界は変わる。中央アジアを巡る動きは、派手さがない。だが、だからこそ本物である。この静かな回廊が定着したとき、日本は初めて「資源の人質」から解放される。それは勝利宣言ではない。生き延びるための、最低条件にすぎない。そしてその条件は、すでに整い始めている。
誰も気づかぬ夜のうちに――。
