2026年1月11日(日)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2026年1月10日

中央アジアが第三の鉱脈になる近未来

 ここで中央アジアと日本の関係に視点を広げてみよう。2025年末、東京で開かれた「中央アジア+日本」首脳会合は、表向きには経済協力の拡大を謳った穏健な外交イベントであった。しかし、半世紀近く資源の現場を歩いてきた筆者の目には、あれは明らかに新しい資源戦争の起点として映った。

 ロシアの影響力低下、中国の輸出規制、米欧の供給網再編――。

 それらが同時に進行する中で、日本は初めて、中央アジアを「援助の対象」ではなく、経済安全保障の中核拠点として再定義し始めたのである。

 カザフ草原で私は「国家の本音」を聞いた。草原の風は、いつも国家の意思を運んでくる。初めてカザフスタンの草原に立ったとき、私は奇妙な既視感を覚えた。地平線まで続く乾いた大地。風の音以外、何も聞こえない沈黙。だが、この沈黙こそが、中央アジアという地域の本質である。中央アジアは饒舌ではない。彼らは多くを語らず、しかし一度腹を括ると、国家ごと動く。

 半世紀近く、資源の世界を渡り歩いてきた筆者として断言できる。重要な資源の話は、首都ではなく、草原で決まる。鉱山交渉は、会議室では終わらないカザフ草原での鉱山交渉は、いつも予定どおりには進まなかった。

 書類は揃っている。条件も悪くない。それでも彼らは、すぐには首を縦に振らない。理由は単純である。彼らが見ているのは「契約」ではなく、「相手の時間感覚」だからだ。あるレアメタル鉱区の交渉で、私はこう問われたことがある。

「あなたは、この鉱山に何年いるつもりだ?」

 価格でもなく、技術でもない。問われたのは“滞在年数”だった。その瞬間、私は理解した。中央アジアにおける資源とは、短期収益ではなく、主権の延長線なのだ。

中国でもロシアでもない「第三の顔」

 彼らは、中国のスピードと資金力を知っている。ロシアの安価なエネルギーと政治的圧力も、骨身に染みて理解している。だからこそ、彼らは日本を見る。日本は遅い。交渉は回りくどい。決断までに時間がかかる。だが、一度決めたことを簡単には変えない。カザフ側の政府関係者が、酒席でぽつりと漏らした言葉が忘れられない。

「日本は静かだが、背中を預けられる」

 これは最大級の賛辞である。

トランス・カスピ回廊は、地図ではなく現場で測れ

 日本政府や欧州が期待を寄せるトランス・カスピ回廊は、資料の上では美しい。だが、筆者は地図を信じない。信じるのは、線路の錆と港の水深だけだ。私は実際に、カスピ海沿岸の港を歩いた。水位低下は想像以上で、フェリーの積載効率は年々落ちている。鉄道はボトルネックだらけで、一本の遅延が全体を止める。それでも、この回廊が持つ意味は揺るがない。

 なぜなら、「使えない回廊」と「存在しない回廊」では、戦略価値がまるで違うからだ。ロシアを完全に切る必要はない。だが、逃げ道を持つことが国家の交渉力になる。

 中央アジアのレアメタル埋蔵量は、中国に比べれば小さい。だが、それで十分なのだ。供給網とは、100%を置き換えるためにあるのではない。10%を逃がすために存在する。中国が輸出を絞った瞬間に、代替ルートが一つでも動く。それだけで、価格も交渉力も変わる。山師の世界では、これを「楔(くさび)を打つ」と言う。


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