ビル・ゲイツの気候変動への取り組み
今から、ちょうど10年前の15年11月、パリでCOP21が行われた。
先進国のみが温室効果ガスの排出量に上限値を持った京都議定書後の取り組みを議論するため、米国のオバマ大統領(当時)、ロシアのプーチン大統領ら各国首脳がパリに集まり、条約参加国全てが自主的に目標を立てるパリ協定が合意された。
政府と企業の共同でのイノベーションへの取り組みも発表される一方、ビル・ゲイツはCOP開催日に、メタの創業者マーク・ザッカーバーグ、ソフトバンクの孫正義ら世界の富豪27人と共に温暖化対策のイノベーションに取り組むベンチャー企業に投資するブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(BEV)を立ち上げると発表した。
二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギー、原子力、合成燃料などの新技術を導入するベンチャー企業に投資することを目的に当初10億ドル(1500億円)が出資された。
ビル・ゲイツの取り組みは賞賛と同時に非難も浴びた。ブレークスルーに参加した富豪の総資産額は1700億ドル(約26兆円)と明らかにされていた。その後BEVの投資額は20億ドル(3000億円)に増額されているが、総資産額に対しあまりに少ない投資額ゆえに、富豪のお遊びとの批判がある。またBEVが、すぐに使える技術を投資の対象とせず革新的な技術にこだわることも問題視されている。
ビル・ゲイツがプライベートジェットで1日1度以上の頻度で移動していること、6000平米の自宅に加え、いくつかの大豪邸を保有していることも温暖化対策に逆行していると非難の対象だ。
ゲイツ財団は石油、石炭会社の株式を保有しているとの報道もあり、多くの化石燃料関係企業に投資している投資家ウォーレン・バフェットが持つバークシャー・ハサウェイの大株主とも報道されている。
ゲイツ自身も、ゲイツ・ノートの中で非難されることもあると触れているので、毀誉褒貶があることは承知している。そんな中で、気候変動の活動家からの反発も覚悟の上で明らかにしたのが「気候に関する3つの難しい事実」だ。
事実1 「気候変動は重要な問題だが、文明社会の終わりではない」
事実2 「気温は、気候に関する私たちの進捗を測る最善の方法ではない」
事実3 「健康と繁栄は気候変動に対する最善の防御だ」
産業革命時から気温が1.5度上昇すれば世界が終わるとの主張が正しくないのは、当たり前に聞こえるが、なぜビル・ゲイツは気候変動大災害論を離れたのだろうか。
9月上旬にビル・ゲイツを含めた大手テック企業首脳はホワイトハウスでトランプ大統領と面談しているが、ビル・ゲイツはその1週間前にトランプ大統領と単独で面談したとの報道がある。トランプ大統領から影響を受けた可能性もあるが、それよりも、その背景には20年に執筆した『地球の未来のため僕が決断したこと』以降のエネルギーを取り巻く変化があるのではないか。
50年ネットゼロは現実的ではなくなり、戦略の転換を余儀なくされたように思える。
