パレスチナ自治区ガザ地区で依然としてイスラエル軍からの攻撃が止まないなか、イスラム組織ハマスは大きな政治的転換点を迎えている。7月20日、新たな最高指導者として停戦交渉でハマス側の交渉団を率いたハリル・ハイヤ氏が選出された。ガザの行政権限をトランプ米大統領主導の和平計画下で設立されたテクノクラート(実務家)組織、「ガザ行政国家委員会(NCAG)」へ移譲すると表明した直後の発表となった。強硬派として知られるハイヤ氏の選出を巡って、組織内部の路線対立などを含め世界各紙は様々な形で報じたが、ハマス統治下で長年生きてきたガザ市民たちは一体、どう受け止めたのだろうか。各紙の報道を検証すると共に、現場ガザからの声を探ってみた。
「1票差」が象徴する組織内の深刻な路線対立 世界はどう報じたか
ハイヤ氏の選出は、ハマスの最高意思決定機関において僅差の投票で決定された。ハイヤ氏は全69票のうち35票を獲得し、対立候補であった元政治局長のハレド・マシャル氏をわずか1票差で破った。この1票の差が、ハマスの将来像をめぐる分岐点だったとも指摘される。当選したハイヤ氏はガザ出身で、殺害されたヤヒヤ・シンワル氏を支えた人物であり、ハマス内部でもイランと同調する派閥に属しているとされる。パレスチナのメディアなどは、これまでに度々イスラエルによる暗殺を免れてきたと伝えている。一方のマシャル氏は、カタールなどのスンニ派アラブ諸国との関係を重視し、より開かれた現実的な外交路線を提示する候補であった。結果として、ハマスはマシャル氏が象徴する「変革」ではなく、シンワル氏の路線を「継承」する道を選択したというのが多くの専門家らによる主な見方だ。
ハイヤ氏選出の影響について、世界各国の主要メディアの報道は分かれている。ニューヨーク・タイムズ紙は独自に入手した内部文書に基づき、ハイヤ氏が2023年10月7日のハマスによる奇襲攻撃を前にイラン側と作戦の調整を試みていたと指摘した。そして、戦争が始まる前にガザを離れ、その後は亡命先からイスラエルとの戦時交渉を監督するなどしていた点に触れ、ハマス指導部の方針に重要な役割を担っていた可能性を示唆した。
ロイター通信は、ハイヤ氏を「ハマス指導部では中心的な存在」であり、マシャル氏よりも強硬派だとし、「ハマスがいかなる条件でも武装解除を拒否し、イランとの連帯を維持したまま軍事力を再建する意図の表れ」とする専門家の見方を伝えている。その上で、武装解除を巡る交渉が難航する可能性が高いと報じた。また、一部の専門家は、今回の人事が国内外で高まる圧力を和らげるための「外交的策略」に過ぎず、時間を稼ぐための手段である可能性にも言及している。
一方、中東アルジャジーラは、ガザ出身であるハイヤ氏の「実務家」としての側面を強調した。ハイヤ氏がトランプ政権の特使らと直接交渉を重ねた経験に触れ、イランとの繋がりを持ちつつも、米国などの交渉相手にとって「単一の窓口」となり得る実用主義的な能力を評価する専門家の分析を報じている。特に、ハマス内部で『4人の殉教者の父』として知られていることに触れ、息子を亡くした経験を持つ米国のスティーブ・ウィトコフ特使と「子供を亡くした親」としての「個人的な絆」を築いた可能性を指摘している。
これに対し、イスラエル各紙は一貫して強硬な警戒感を示した。ハイヤ氏が最高指導者に選出されたことで、ハマスが武装闘争を維持し、第2段階への移行を強めるだろうと予測している。また、ハイヤ氏をイランとの関係を重視し、「武装闘争の継続」を望む勢力の代表と位置づけ、今後も強硬な姿勢が維持されるという治安機関の見解を伝えている。
