トランプ政権は8月18日、国際刑事裁判所(ICC 本部オランダ・ハーグ)の赤根智子所長(以下、初出以外人物に付する敬称および官職名略)ら幹部に制裁を科すと発表した。英BBCニュース(2026年8月19日付電子版)によれば、制裁措置には、資産凍結、渡航禁止および米国企業からのサービス(例:米国の銀行口座、クレジットカードの利用およびオンラインでの購入)などがある。
トランプ政権では、これがICCに対する初めての制裁ではない。第1次トランプ政権は2020年9月、アフガニスタンにおいて戦闘に関わった米兵士らの戦争犯罪の捜査を行ったICC主任検査官(当時)に制裁を科した。第2次トランプ政権では2025年2月、ドナルド・トランプ米大統領は、ICCの職員らに制裁を科す大統領令に署名した。
なぜ、トランプはICCを「敵視」するのか。どうしてこのタイミングで制裁を科したのか。以下で、彼の心理的側面にも触れながら、ICCに対する制裁から何が読めるか述べていくことにしよう。
トランプに不都合な存在――ICC
ICCは、戦争犯罪や大量虐殺(ジェノサイド)などを犯した個人を裁く常設の国際的な司法機関である。一方、米国内では、司法省が法執行機関である。トランプは、国内では大統領の職権に基づいて行う人事で、自らに近い者を任命する。その一例が、自身の元個人弁護士であったトッド・ブランチ氏を司法省長官に任命したことである。このようにして司法もコントロールする。
ジョー・バイデン前大統領が、司法省は大統領から独立した機関であると述べて、司法省を尊重したのとは対照的だ。バラク・オバマ元大統領もバイデンも、自身の個人弁護士を司法長官に任命しなかった。それに対して、トランプがブランチ氏を司法長官任命したのは、自分が犯罪行為で起訴される可能性があることに対する危機管理と捉えているからだろう。また、彼はICCに対しても同様の意識を抱いているのだろう。
米司法省とは異なり、トランプはICCを意のままに動かせない。それは、米国がICCに対する最大の分担金拠出国ではなく、加盟国でもないからだ。しかも、ICCは「法による支配」および「法による秩序」を重視する司法機関である。「力による支配」並びに「分断と混乱」により権力と支持基盤を強化するトランプにとって極めて都合の悪い存在なのだ。
「力による支配」と「エゴ」の二人三脚
トランプは、大統領選挙戦を通じ、また、大統領就任後も一貫して、「秩序対混乱」という対立構図を用いて、意図的に混乱状態を作り、対立と分断を促進し、その中で自分が意図した方向へ支持者を向かわせてきた。
その例として、ジョージ・フロイド事件を挙げてみよう。2020年5月25日、中西部ミネソタ州で、黒人男性のジョージ・フロイド氏(当時45歳)が約9分間、白人警察官に首を膝で圧迫され、死亡する事件が発生した。この「殺人」事件を機に、全国で人種差別と警察官の市民に対する暴力に抗議する運動、「ブラック・ライブズ・マター(BLM: 黒人の命だって大切なんだ)」運動が再燃した。2012年2月に南部フロリダ州で発生した自警団の白人系男性による黒人高校生射殺事件を受けて、スローガンとして広がった抗議運動で大々的に使われた言葉であった。
フロイド事件に対する抗議運動は、平和的な運動から一部暴動に発展した。そこで、トランプは連邦警察官や州兵を首都ワシントンや大都市に送り、鎮圧を図り、自分を「法と秩序の大統領」と呼んだ。
別の例も挙げてみよう。トランプは、民主党が地盤とする移民に寛大な「聖域都市」に米移民・関税捜査局(ICE)の職員を送り、不法移民の取り締まりを強化した。一見、「法による支配」ないし「法による秩序」を重視しているように見えるのだが、トランプ政権は合法的な移民までも強制送還した。ICEの強引な取り締まりのやり方は、ニュースなどでも放映されたが、暴力的なものであった。
それに対して抗議運動が全国で起こり、社会に混乱を招いた。その混乱状態の中で、トランプは、自分が「秩序の擁護者」であるかのように、自らを演出した。みせかけの秩序の擁護者であることは言うまでもない。
実際は、トランプは「法による支配」ではなく「力による支配」、しかもその力を「私」、つまり「エゴ」のために使っている(図表1)。ベネズエラやイランに対する軍事力行使は、「力による支配」であり、その背景にあったべネスエラ産やイラン産原油の獲得は、正しく彼の「エゴ」である。トランプの「力による支配」と「エゴ」は二人三脚の関係なのだ。
トランプはICCに対して、エゴ(逮捕状と起訴の回避)のために力(制裁措置)を行使したとみられる。トランプにとって、ICCは不都合な存在であり、故に、彼は司法機関であるICCを敵視するのだ。

