2026年8月30日(日)

トランプ2.0

2026年8月30日

「人道に対する罪」と「戦争犯罪」を恐れるトランプ?

 トランプがICCを不都合な存在とみる理由は、ICCが将来、戦争犯罪の容疑で逮捕状を自分に出すことを恐れているからだろう。

 ICCは、ウクライナ占領領域からロシアに子供を不法に連れ去った容疑で2023年3月17日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に逮捕状を発した。さらに、ICCはトランプと近い関係にあるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して2024年11月21日、パレスチナ・ガザ地区に対する軍事攻撃に関して、人道に対する罪や戦争犯罪の容疑で逮捕状を出した。

 なぜ、彼らに対してICCの判断が及ばないのか。第1に、ICCは拘束や逮捕の手段を持っていないからである。第2に、ロシア、イスラエル、米国およびイランなどは非加盟国である。その実効性のある逮捕には、締約国に限らず、諸国に協力を頼まなければならないのである。

 英誌エコノミストと大手調査会社ユーガブの全国共同世論調査(2026年7月25~27日実施)によれば、「国際刑事裁判所がベンヤミン・ネタニヤフ首相に逮捕状を出しました。もし彼が米国を訪問したら、逮捕すべきですか」という質問に対して、49%が「はい」、27%が「いいえ」、23%が「分からない」と回答した(図表2)。「はい」が「いいえ」を22ポイントも上回った。米国民はICCのネタニヤフに対する逮捕状を評価していることが分かる。

 トランプに対して、「人道に対する罪」や「戦争犯罪」に値する行動があったとの見解を、非公式ながら示すICC職員もいる。トランプの指示の下で2025年9月以降、米軍はベネズエラ沖などで「麻薬運搬船」とみられる船を攻撃してきた。麻薬運搬船の過半は、漁船や小型船であるとみられている。

 米有力紙ワシントン・ポスト(2025年11月28日付電子版)は、カリブ海で米軍による「麻薬運搬船」攻撃の後、炎上する船の残骸にしがみついていた生存者2名に対して「追い打ち攻撃」が行われたと報道した。戦闘能力や抵抗の意思のない者への攻撃は戦争犯罪になる。

 対イラン戦争にも目を向けてみよう。米軍は戦争を開始した2026年2月28日、イラン南部ミナブにある小学校を攻撃した。誤った古い情報が原因の誤爆であったようだが、結果として児童と教員らを含む168人(から180人推定)が殺害された。専門家は、映像から使用されたミサイルは米軍のトマホーク巡航ミサイルとみている。

 また、トランプは同年4月2日、イラン最大の橋が崩れ落ちる映像と、降参を促すメッセージを自身のSNS(交流サイト)に投稿したが、インフラ攻撃は戦争犯罪である。イラン国営放送などによると、この空爆により8人が死亡し、95人が負傷したという。

「負の遺産化」の回避

 対イラン戦争に直面しているトランプが、国内でエネルギーを注いでいるのが――物価高対策ではなく――自分のレガシー(遺産)づくりである。

 その最大のものは、首都ワシントンの建物などを修復、新築および増築する「トランプ・プロジェクト」である。それには、ホワイトハウスの「軍事・宴会場複合施設」、リンカーン記念堂のリフレクティング・プールの改修、凱旋門建設、ダレス国際空港改修からすでに行われたホワイトハウスのローズガーデンの改修などが含まれる。

 ちなみに、トランプが「宴会場(ボール・ルーム)」から「軍事・宴会場複合施設」に名称を変更した理由は、歴史建造物の保存団体などに訴訟を起こされている中で、工事を継続する正当性を得るためだとみられている。宴会場のみならず、大統領を守るための最先端の軍事施設を建設すると主張し、具体的には地下シェルター、屋上にドローン迎撃用のドローンポートやドローン攻撃に耐えられる屋根や強化ガラスの設置を挙げている。それによって、宴会場建設の発表時に全額を寄付金で賄うとしていた建設費に、税金を一部投入することが可能となった。

 宴会場建設費は、総額で約6億ドル(約950億円 1ドル=159円で換算 以下同)が見込まれている。トランプによれば、集まった献金は約3億5000万ドル(約550億円)で総額には達していない。結局、半分程度(約3億ドル=470億円)が税金で賄われると報じられている。

 昨今、トランプは自分の名前をワシントンに残そうと、ディベロッパーに立ち返ったように、主として建造物といった「物理的レガシー(physical legacy)」づくりに時間を費やしている。

 仮にICCが、前述の攻撃を「人道に対する罪」と「戦争犯罪」と判断し、トランプに逮捕状を発した場合、上記で紹介した物理的レガシーは「負の遺産」に変わり得る。前述の通り、ICCには逮捕を執行する権限や機関がないため、プーチンやネタニヤフと同様、トランプ逮捕は、非現実的ないし高いハードルであるとしても、彼のレガシーを大きく傷つける効果は十分にある。

 権威主義者トランプは、上記の点を懸念し、国際的な司法機関を恐れているのではないだろうか。そこで彼は、「負の遺産化」を回避するために、ICCに対して「攻撃」に出た。国内では司法機関を従え得るが、ICCにはトランプの力がさほど有効でない。


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