2026年8月29日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年8月29日

結城豊弘。1962年鳥取県生まれ。駒澤大学法学部卒。読売テレビにアナウンサーとして入社。1995年、アナウンサーから東京制作部に異動、『ザ・ワイド』のチーフプロデューサーを経て、『ウェークアップ!ぷらす』チーフプロデューサー。『情報ライブ ミヤネ屋』統括プロデューサー、『そこまで言って委員会NP』チーフプロデューサーを歴任。2022年4月に独立。現在、フリーTVプロデューサー、鳥取大学理事、境港観光協会会長。合同会社ANOSAのCEO。著書に『オオサカ、大逆転!』(ビジネス社)、『吉村洋文の言葉101』(ワニブックス)などがある。

 物価高で病院経営が苦しい。全国に42法人44カ所ある国立大学病院でも約7割が赤字だ。ところが、人口最少県の鳥取大学医学部付属病院(以下、鳥大病院)では黒字を維持し続けている。なぜなのか。

『病院がなくなる 国立大学病院・「赤字」を突破する大改革』(ビジネス社)は、特別顧問として鳥大病院に関わってきた元読売テレビ・プロデューサーである結城豊弘さんが、鳥大病院が成し遂げた「成功モデル」の軌跡を内側から描いた一冊である。

『情報ライブ ミヤネ屋』などのプロデューサーを務めてきた結城さんは、鳥取県境港出身なので、自身や家族にとって鳥大病院は子どもの頃から身近な病院だった。

―― その鳥大病院の院長に2018年に特別顧問を依頼されたんですね?

「はい。で、25年10月の国立大学病院会議で大学病院の現状を知ったり、今年に入って速報で鳥大病院が国立大学病院の中で経営収支が1位になったことを知り、“これは、鳥大病院の一連の改革に多少とも関わった者として記録を残しておかないと”と思いました」

 現在、8月1日発行の本書は、病院経営の分野でベストセラーになっているが、読者の反響を見ると、企業の経営改革論ないしリーダー論としても読まれているという。

なぜ、国立大学病院は赤字になるのか?

 全国の国立大学病院が04年の独立行政法人化以降、23年度に初めて26億円の赤字となり、24年度は286億円、25年度は(本来400億円超の赤字見通しが政府の補正予算で支援を受け)244億円の赤字となった。急速に赤字体質となり始めたのである。

 その理由は、コロナ禍にあった政府補助金の大幅な減少がまず挙げられる。加えて、22年のウクライナ戦争の影響による諸物価の高騰と、それに伴う人件費の上昇。さらに医療機器の更新。物価に連動しない診療報酬制度。人口減少による患者数減少などがある。

 鳥大病院の場合、転機があった。10年の手術支援ロボット(ダビンチS)の導入である。鳥大病院でも経営収支は赤字と黒字を繰り返していたが、この頃から黒字基調になったのだ。

―― ロボット手術は、本書によると、内視鏡・腹腔鏡手術に比べると、出血が少なく、安全であり、視野が3Dでしかも広い?

「事故につながる手ぶれが防げます。しかも多くの人が画面を確認するチーム医療ができて、万一の時はすぐ中止して開腹手術に切り換えることもできます」

 10年当時、北野博也氏(耳鼻咽喉科)が副院長、原田省(たすく)氏(産婦人科)が低侵襲外科センター長、前立腺摘出を執刀した武中篤(あつし)氏(泌尿器科)は泌尿器科長だった。

 後に鳥大病院の院長になる3人は、そろって海外でロボット手術に立ち会っており、武中氏は手術時の解剖学の権威でもあった。

―― その最初のロボット手術の時、北野さんが「ロボット手術は複数の診療科でシェアをして」と指示したのが、画期的ですね。

「その通りです。北野さんのリーダーシップにより、ロボット手術は泌尿器科だけではなく、消化器外科、胸部外科、産婦人科でも開始しました。このことによって、鳥大病院の診療科の壁が乗り越えられ、本当の意味でのチーム医療が始まったんです」

 医師はプライドが高く、縄張り意識も強い。それゆえ結城さんは、「小さな県の、小規模な大学病院だからできたこと。東大病院や阪大病院などの大規模病院であれば、診療科の壁はとても高く乗り越えられない」と指摘する。

 国立大学病院は最先端治療を行う特定機能病院。しかし鳥大病院は人口最少県にある人口約14万の都市にあって、1日の患者数は1500人から2000人ほど。他の病院より小回りが効き、トップがいったん決断を下すと、意思決定は驚くほど速いのだ。

『ロボット手術マニュアル』を発行し、院内に24時間保育所を開設した北野院長の病院改革路線は、その後の原田院長、そして現在の武中院長(23年4月より)へと受け継がれた。


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