2026年9月18日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年9月18日

 米加関税交渉が決裂したことにつき、Economist誌8月29日号の社説は、全面的な貿易戦争となればカナダに勝ち目はないとして、カーニー首相に何らかの妥協の可能性を探ることを勧奨している。

2026年6月16日、フランス・エヴィアン=レ=バンで開催されたG7および中東諸国の首脳とのワーキングランチで、ドナルド・トランプ米大統領が会談(ロイター/アフロ/)

 トランプ大統領が2025年2月に最初にカナダ製品への関税を命じた際、彼は流入する麻薬や移民を阻止するためだと述べた。彼はすぐにその理由付けを引っ込め、貿易赤字、国家安全保障、カナダの酪農産業、カナダの税金、テレビ広告、カナダと中国との貿易、そして山火事の煙など、次々に不満をまくし立て、マフィアの親分のような口調で、カナダを米国の第51番目の州にすることを繰り返しほのめかした。

 世界最強の権力者の気まぐれによって、カナダのカーニー首相は、破滅的な貿易戦争の瀬戸際に立たされている。8月25日、カナダは、同等規模の200億ドル相当の米国産品に報復関税を課すと発表した。問題は、米国の経済規模はカナダの13倍もあり、衝撃への耐性もはるかに高いことだ。

 米国との経済関係の安定は、カーニーにとって米国への過度な依存から脱却し、経済の多角化を図るための投資の誘致に不可欠である。これまで同首相は、一部の課税を撤廃し、前任者から引き継いだ報復関税を解除し、米国へのエネルギー輸出削減を求める声にも応ずることなく、攻撃的な姿勢を避け、交渉の継続に努めて時間を稼いできた。しかし今回、米国の要求はあまりに過酷なものだった。

 今は危険な局面にある。交渉決裂後、米国の関税が発動された。トランプは、1月1日からカナダ製の乗用車、トラック、自動車部品に対して50%の追加関税を課すと表明した。

 カナダの経済規模(2.5兆ドル)は米国のそれ(32兆ドル)よりはるかに小さいだけでなく、米国経済への依存度も、米国側のカナダ依存度よりはるかに高い。

 カナダの輸出の約3分の2は米国向けであり、その大半は米国のサプライチェーンに組み込まれているため、代替の買い手をすぐに見つけることは困難だ。カナダが報復措置に出れば、その痛みはさらに深まるだろう。

 従って、カーニーは自らの主張を示した以上、報復関税の撤回を模索すべきである。もしそれが政治的に不可能だとしても、例えば、中間選挙の激戦州で、カナダとの貿易額が大きく、その州の政治家がトランプに影響力を行使し得る地域を対象にするなど、少なくとも対象を絞り、かつ撤回可能な形にすべきだ。既にカナダとの対立により米国の国益が不必要に損なわれることに対する不満の声も上がっている。

 両国の当局者は、事態をエスカレートさせることによるコストを認識すべきだ。交渉が決裂したもう一つの理由は、関税の引き下げに反対する米国内の保護対象産業が、政権に対して激しいロビー活動を行ったことにあり、一度発動された米国の関税を撤回するのは容易ではない。

 トランプだけが、カナダに対するこの非論理的な攻撃をやめさせることができるが、彼にその気配はない。カーニーはこれまで、トランプに穏健に対応しても政治的に致命傷にならないことを示してきた。


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