2026年9月18日(金)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2026年9月18日

 企業が働く障害者の負担を取り除く「合理的配慮」は、発達障害者にも「機会の平等」を与える。しかし、それは「結果の平等」を保証しない。そこにはトレードオフがある。得るものもあれば、失うものもある。

(b-bee/gettyimages)

 この点を考慮せず、合理的配慮を軽率に適用すれば、人生の長期計画を下方修正せざるを得なくなる。この弊害は知的障害が軽いほど生じやすい。弊害は、知的障害を伴わない「高機能発達障害者」において、いっそう顕著となり、高学歴者において最大化する。

 したがって、企業は合理的配慮を、キャリア上のリスクを伝えることなく、安易に与えるべきではない。社員もまた、これを「言わなきゃ損」、「言ったもん勝ち」の制度だと誤解してはならない。

「発達障害ゆえに合理的配慮を」と主張するエリート社員

 以下に架空の、しかし、産業医にとってはおなじみの事例を挙げる。26歳の男性社員は有名私立大学を卒業し、将来の幹部候補として総合職採用された人である。

 会社としては、通常のエリート養成プログラムに従い、ジョブローテーションを経験させ、営業、企画、人事、財務など、多岐にわたる業務を担当させてビジネススキルを磨くとともに、早期から経営視点を持たせるべく、高度な判断力を求められる課題を与える心づもりでいた。

 一方、本人は大学時代に抑うつを呈し、近医のメンタルクリニックを受診したことがあった。その際「高機能広汎性発達障害」の診断を受けていた。

 「高機能」である以上、知的障害を伴う自閉症(広汎性発達障害の中核)とは異なり、社会適応の障害は軽い。しかし、本人は、診断書をもとに大学に自ら要求して、試験時の配慮、評価の代替、講義室での座席位置指定、コミュニケーション補助等の、手厚いサポートを受けていた。

 卒業後、入社して3年は良好な稼働であったが、あるとき納期交渉がうまくいかず、上司から注意を受けた。その後、かつての通院先メンタルクリニックを再受診した。

 主治医に「発達障害の特性上、定型的な仕事は得意だが、環境変化や対人交渉は苦手である。この点を考慮した人事配置が望ましい」との診断書を書かせて、会社に提出した。そして、以前、大学時代に受けたサポートと同様に、会社に対しても手厚い合理的配慮を求めたのであった。


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