2026年7月25日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年7月25日

『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書)。
富坂聰。ジャーナリスト 1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある

 日本ではほとんど報道されることはないが、中国は今や、AI、ロボット工業、EV(電気自動車)、ドローン、太陽エネルギー、原子力発電、医療機器、宇宙産業、軍事技術などにおいて世界最先端を行く技術大国である。

 そのことを、各分野において具体的事実と数字を挙げて実証し、そこから浮き上がる問題をさまざまな視点から検討したのが本書『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書)

 著者は、長年の中国研究者でありジャーナリストでもある富坂聰さんだ。

――本書を今、出そうと思われた理由は?

「最近の中国の日本での情報が、私の知っていることと随分違う。そのズレ方が、取り返しがつかないほどではないかと危機感を覚えたのが、執筆の動機ですね」

 ただし、タイトルの「中国一強」については、読者の関心喚起のための言葉であり、「中国がそれを望んでいるわけではない」と述べる。アメリカが「世界の警察官」役を退いた後、中国が空いた椅子に自身が坐るつもりはなく、「あくまで多国間主義の中で、自らの発展を目指している」と言うのだ。

 第1章は、3000メートルを越す高地の青海省やゴビ砂漠に続く乾燥地の甘粛省に、太陽光発電装置や送電線が密集している光景。

 貧しい土地で発電し、料金を都市の企業や住民が支払う「西電東送」という仕組みである。

――5G(第5世代の移動通信システム)の通信基地局も、2025年の段階で全国に475万カ所あるそうですね?

「そこが米中の競争の最前線なんです。膨大な発電能力と全国規模の通信インフラ、それがこれからの時代に必要不可欠です」

 2012年に習近平が指導者になって以降、「中華民族の発展(開放拡大や共同富裕など)」を目指す一方、「生態文明(環境保護と経済成長を両立させる発展モデル)」を掲げている。有名な汚染大国だった中国が、環境整備と経済発展を同時併行で追求中なのだ。

「例えば交通マナー。かつての中国は無茶苦茶でした。ところが今や、酔っ払い運転や信号無視もほとんど見かけなくなりました。歩行者の信号無視も、すぐに顔認証で身元がわかり罰金を取られますから、あり得ませんね」

 その背景にあるのが「5カ年計画」だ。政府には長期プランがあり、5カ年計画に“交通マナー”がテーマとして入れば徹底的に改善する。大気や水質などの環境を保護しながら約10年でGDPを倍増できたのは、「5年ごとにテーマを絞った習政権の実行力」と富坂さんは見る。

台湾問題と中国からの日本の見え方

――台湾問題はどうでしょう? 中国は常々「我々は闘いたくない、ただ闘う準備は出来ている」と言っていますが?

「中国は1980年以降、一貫して平和統一を唱えていますが、不思議なことに日本の報道は武力行使の後半部のみ。もっとも、現在の台湾の民進党の頼清徳総統はちょっと危ないですね。国民党に対抗し、民進党の岩盤支持層を意識して中国離れを声高に訴えているのでしょうが、やりすぎの感があります」

 しかし本書で富坂さんは、「トランプ大統領は台湾問題に関心を示さない」と記す。例年なら頼総統は南米を訪問する帰途ニューヨークに立ち寄るが、25年は立ち寄りを拒否された。

 また同じ25年、コルビー国防次官は「米中の軍事バランスは劇的に悪化し、(現在は)中国に有利な状況」と発言した。

「でも、中国の方から台湾海峡でコトを起こすことはないと思いますよ。一帯一路などでコツコツと積み上げてきいたものが、紛争一つで全部壊れてしまいますからね。台湾が国連加盟をもくろむとか、そんな大それたことさえしなければ、武力行使はあり得ないと思います」

 25年11月、高市首相は国会答弁で「台湾への武力行使は(日本の)存立危機事態」と発言し、中国の猛烈な反発を招いた。

「これ、単なる失言じゃない。中国は、高市早苗氏が圧倒的な支持率で首相職を務めていること自体、日本社会全体の変化と見ているんです。現状は新型軍国主義だ、と」

 高市首相の背後には、憲法改正や南西諸島での自衛隊増強、防衛費1%枠・武器輸出3原則・非核3原則の形骸化、などがあると富坂さんは言う。


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