今年4月、米国主導のアルテミス計画で、NASA(米航空宇宙局)などの有人宇宙船が約10日かけて月を周回し地球に戻った。1972年のアポロ17号以来、約半世紀ぶりに人類が月に近づいたことになる。
宇宙開発の最前線
『宇宙にヒトは住めるのか』(ちくまプリマ―新書)は、長年宇宙分野を取材してきたライター林公代さんが、月面農場からモジュール型居住施設、地上の役10倍の速さで進む老化まで、宇宙開発の最前線に幅広く迫った一冊である。
―― 今回の本は1月刊行ですが、4月のアルテミス計画の月周回飛行にも合わせた?
「ちょうどタイミングが一致してくれました(笑)」
著者の林さんによれば、昨年国立天文台の花見で出版社の編集者に会った際、「宇宙にヒトは住めますか?」と聞かれた由。
高度400キロのISS(国際宇宙ステーション)に各国の宇宙飛行士が2000年から住み続けていることは宇宙関連業界の常識。それなのに一般の人はISSのことをよく知らない、と改めて驚いた林さんは、では文系の高校生でもわかる宇宙の本を書いてみようと、本書の執筆を思い立ったという。
―― 第一章の月面農場の話題は衝撃的ですね。月産月食(月で育て、月で食べる)を、千葉大宇宙園芸センターの後藤英司教授が主導して、日本が世界をリードしている?
「現在のISSでの食べ物はレトルト食品とフリーズドライなどの宇宙食。新鮮な生野菜はほとんどない。かといって地球から運ぶと片道3日、1キログラム当り1億円から2億円も運送費がかかります」
後藤教授の月面農場では8種の作物(イチゴ、トマト、イネ、サツマイモ、ジャガイモ、キュウリ、ダイズ)を育てている。品種改良、LED光、水耕栽培中心で、矮性のため小空間でもよく育ち栄養豊か、味もいいのだ。
「しかも、食べる人間の排泄物を含めた資源循環まで考えての月産月食です。NASAなど外国の宇宙食は効率優先ですが、美味しさにもこだわるのが日本らしさ。実際、食べ物の味は重要で、よくないとストレスや宇宙飛行士間の不仲にも繋がりますからね」
食べ物の美味しさが「食のQOL(生活の質)」ならば、快適な住まいは「住のQOL」とも言え、日本はこの分野にも大きなこだわりを持っている。
