2026年4月25日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年4月25日

宇宙への人体の影響は?

 人間が宇宙に行くと、しかし、体も変化する。宇宙人はこれまで蛸のように、あるいは頭の大きな子どものように描かれてきた。無重力の状態では血液が頭の方に流れ込み、使わない手足の部分が退化するからだ。

―― 骨に重力がかからないためカルシウムが蓄積されず、骨密度が宇宙飛行士の場合、4日間で約1割低下とか。使わない筋肉も寝たきり状態の2倍の速度で衰える、とか?

「それを防ぐため、宇宙飛行士は宇宙でも毎日約2時間の運動を続けます。一般の人が宇宙旅行する場合は、期間によりますね。3、4日間ならまず大丈夫ですが、それ以上は問題が起きる可能性もあります」

―― あと、吐き気、胃の不快感、食欲不振などの「宇宙酔い」は約7割の人がなるそうですが、眼の不調のSANS(宇宙飛行関連神経眼症候群)のことは、本書を読んで初めて知りました。視神経の腫れと、眼球の後ろの部分が平べったくなる視力障害ですよね?

「原因はまだわかりません。体液が頭に移動し頭蓋内圧が眼を圧迫するから起こるのでは、という説もありましたが、宇宙飛行後、内圧が上がる人、下がる人、SANS(宇宙飛行関連神経眼症候群)が起こる人もいれば起こらない人もいます。様々な仮説について、現在調査中です」

 本書によれば、月に1万人が住むような時代になれば、ルナグラス(幅557メートル、高さ536メートル)のシャンパン型の居住施設を1分間に3回転させて重力を作る装置が必要になるという。

 もっとも、放射線を防ぐ装置の遮蔽物をどうするか(水か金属か)。1分間3回転のエネルギー源を何にするかなど、いまだ問題山積で、実現には100年以上かかるはず。

―― 同様の人工重力居住施設は火星ではワイングラス状になりマーズグラスと呼ばれるそうですが、「月より火星の方が暮らしやすい」とあります。これはどうしてですか?

「火星の重力は地球の3分の1ですが、地下に大量の水が推定されています。水はさまざまな用途の他にエネルギー源にもなる。また薄い大気もあり、平均気温がマイナス60度で赤道近くは昼は20度。1年687日ですが1日24時間37分、四季もあるので、月よりはずっと暮らしやすい環境です」

 2021年は宇宙旅行元年だった。民間人4人のみがISSへの運搬船を貸し切り、打ち上げから帰還まですべて自動操縦で3日間地球を周回飛行したのだ。中に1人、骨肉腫のがんに罹患した女性も含まれていた。

―― 宇宙飛行士の野口聡一さんが「宇宙では地上の健常者が障害者に、地上の障害者が健常者になる」と言っていますね。

「重力がないから車いすの人でも自由に動けます。これは宇宙の持っている大きな可能性ですね。東京科学大学の関根康人教授は、宇宙では人間の持つ機能が拡張するかもしれない、とも言っています。地球の海で深く素潜りする人が、通常の限界を超えて自分の体から特殊能力を引き出すように、私たちがまだ知らない人間の機能が宇宙では開花するかも知れません。未知のことはまだまだあるんです」

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