東京証券取引所(東証)は2023年3月に上場企業のうち、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの会社を念頭に「資本コストや株価を意識した経営」を要請し、改善計画の開示を求めた。即効性の高いPBR引き上げ策は株価を上げること。その結果、大規模な自社株買いを誘っている。
自社株買いは、戦後一貫して商法で禁じられてきたが、国際基準に日本の法制度も合わせようとする流れの中で商法が01年に改正され、実現する。それまでの商法改正のように商法学者を中心とする法制審議会での議論を経ることなく、議員立法により商法が改正された。
自社株買い解禁の影響についてしっかりした論議は導入時点ではなかった改正だった。税法や会計制度が追いついて実際に自社株買いができるようになるのは02年になってからで、制度改正そのものの経緯に泥縄的な要素がみえた。それでも導入から20年以上もたち、制度としては定着した感があった。だが、23年の東証のPBR1倍割れに警鐘を鳴らす「要請」で状況は一変した。
PBRは時価総額(株価×株数)を純資産で割った指標である。PBR1倍割れの状態とは、会社の解散価値が時価総額を上回っているので、事業を続けるより会社を解散した方が、株主には得だと説明されていた。裏を返せば、無能な経営者がだらだら事業を続けている非効率な会社で、株価が安値に放置されているとの印象を与える理屈だった。
だが、実際に会社を解散するとなると、資産はたたき売りになるので、帳簿通りには売れない。その意味では帳簿上の純資産額は実際の解散価値より高くても当然だ。PBRが低いなら、資産が効率的に使われていないのは確かだが、何が何でも1倍以上でなければならないとの理屈も変だ。
本来、PBRの引き上げは、採算の悪い事業からの撤退や売却といった事業の見直しによって実現されるべきだが、株価を上げればPBRも上がるため、株価対策として自社株買いを実施する方が手っ取り早い。このため、東証が対象会社に作成を求めた「改善計画」は、翌年度からの自社株買い急増を誘った。24年度の自社株買い額は16兆円と前年度比70%増、25年度も12月末時点で、16.2兆円とすでに24年度を超えており、過去最高となるのは確実だ。
