同時に、1部上場会社の一部を格下のスタンダードに、2部から格下のグロースに移すなど、より上位の市場に残れるハードルを上げた。しかし、「格下げ」される地方銀行に信用不安が起きるのでは、と金融庁が懸念したこともあって、絞り込みには長い経過期間を設けた。このため、1部上場会社のほとんどはプライムに、2部はスタンダードに、マザーズとジャスダックはグロースに移ることになり、「名称(看板)を変えただけの中身のない改革」と揶揄されることになった。
そんな不評もあったのだろう。東証は翌年23年3月に、PBR1倍割れ会社に経営改善を求めた。社外取締役に促されることもあって対象会社は対応せざるを得なくなる。
PBR1倍割れは、収益力のない会社の代名詞のようになり、独り歩きした。会社側の対応のひとつは、東証からの退場だ。上場廃止は25年に過去最多の125社となり、新規上場が66社と前年比で20社減少したこともあって、25年末の上場会社数は前年比で60社減少し、3782社となった。24年に続き、2年連続の上場社数減少だった。
その一方で、大半の居残り上場会社では、研究開発や設備投資など成長投資は伸び悩み、過度な株主還元に資金が投入されてしまっている。いわゆる成長投資ばかりか、経営者や従業員への配分(賃金)も抑えられがちになり、社員の勤労意欲や職にとどまる意欲を低下させている。
賃金への分配抑制は、過去30年以上にわたり、失われた30年と重なる。それを反映して日本の労働分配率は基本的に下がり続けている。それは、国内消費の弱さという日本経済の最大の弱点の原因になっている。結果的に会社の売り上げが長い期間に渡って伸び悩む主因になってきた。
過度なROE経営がもたらす
「副作用」を乗り越えられるか
賃金抑制をとらえ、前出のスズキ教授は「利益や配当の最大化が国民経済の健全な発展につながらない『合成の誤謬』のような状況」との懸念を持っている。教授は岸田文雄政権の「新しい資本主義」にもデータや理論を提供したが、同政権は発足直後から金融資産課税の方針で躓き、「新しい資本主義」政策は中途半端に終わった。受け入れやすい四半期開示報告書の廃止(四半期決算短信は存続)はできたが、より核心といえる自社株買いへの規制導入は見送られている。
過度なROE経営に導いてしまいがちな東証改革やコーポレートガバナンス(CG)コード。それらの「副作用」について警戒感を持つべき時期が来ている。副作用に関し、東証に問い合わせると、「自社株買いや増配のみの対応や一過性の対応を期待するものではなく、資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取り組みを期待する」と回答、CGコードの改定などを通じて修正していく考えを示している。
とはいえ、自社株買いを抑制すればPBRの数値的な改善は鈍くなる。東証改革は副作用を乗り越えて、日本企業の「質」をより高いものに導けるのだろうか。
