2026年4月25日(土)

つくりびととの談い

2026年4月25日

 天竜川水系のひとつに、安間川という全長14キロ・メートルほどの河川がある。

 浜松市中央区を北から南へ貫流する安間川は、天竜川と河口付近で合流して遠州灘に注ぐ。都市部ではすっかり見なくなった小高い土手の連なりに、雑草が生い茂っている。

 日本で唯一、企業としてチェンバロを製作している(個人製作者は複数いる)三創楽器製作所の社長・岩上勝さん(67歳)は、昼食の後、この土手を歩くのを日課にしている。

ピアノの前身と言われるチェンバロは、鍵盤を押すと内部の爪が弦を弾くことで音が出る。岩上勝さんは手作業でチェンバロをつくる生粋の職人だ(写真・大西史晃 以下同)

 「コガモ、カルガモ、ヒドリガモにカワセミもいる。たまにスッポンも見かけるね。これはノビルだよ。葉っぱを千切って匂いを嗅いでみて」

 ニラのような匂いがする。

 しばらく歩くとアスファルトが尽きて、砂利道が続いた。

 「じゃりじゃりして歩きにくいけど、雨水が浸み込むんだよ。こういう道を歩かないと、感覚がおかしくなっちゃうからさ」

 三創楽器の工場に近い水付橋からスタートして、上流の天王橋で折り返すと小一時間かかる。桜の季節には、もう少し距離が伸びる。

 「午前中の仕事で、ああ、やっちまったと思うことがあっても、原因を考えながら歩いているといいアイデアがぱっとひらめく。人間は歩かないと考えられない生き物なんだよ」

 四季の移ろいを愛でながら歩くばかりではない。憤りもある。

 「ここは車の抜け道になってるから、桜の枝をみんな切っちゃった。枝を切らなきゃ長生きできるのにさ。それにしても最近の車って、売るためのデザインばっかりでみすぼらしいよなぁ」

 準工業地域を流れる一見殺風景な安間川の岸辺が、岩上さんと一緒に歩くと、変化に満ちた賑やかな場所に見えてくるから不思議だ。


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