「基礎的な技術は継承しなくちゃいけないけれど、基礎さえあればいくら応用したっていいんだよ。だけど、応用を固定化したら面白くない。応用は常に変化させていかなくちゃ、いいものはできない。応用を王道にしちゃいけないってことだね」
失敗も面白いものに転化
変化があるから進化できる
三創楽器には、若き後継者がふたりいる。松村直太朗さん(22歳)と佐藤琳さん(23歳)である。
17年、岩上さんは厚生労働大臣から「現代の名工」の表彰を受けているが、若いふたりは名工の厳格な指導を受けているのかと思いきや、まったくそうではなかった。
「自由にやらせてもらっています」(松村さん)、「社長は優しいし、いつも楽しそうにしているところがすごいと思います」(佐藤さん)。
岩上さんが言う。
「ふたりが失敗してくれるとさ、それがきっかけで面白いものに転化することがあるわけで、これが絶対に正しいなんて道順はないんだよ。道順を自分で考えるのが一番大切なことだから、彼らにはいつも、自分で考えてやってって言ってるわけ」
岩上さんの言葉に触れるうち、真木悠介の名著、『気流の鳴る音』(ちくま学芸文庫)の中の難解な一節が、すとんと腹に落ちてきた。
「殺風景な社会はかならず自己の周囲に殺風景な自然を生み出す。草や木や動物たちとの交歓を享受する能力は、同時に人間の関係性への味覚をしなやかに発達させる」
岩上さんは、いまだに完璧な楽器を作ったことがないという。常に、まだまだ行けると思う。
「たぶん、無限に続くんだろうね。若いころは〝仕事〟だったけれど、最近は〝遊び〟になってきたよね。変化があるから進化するわけで、そこが面白いんだけれど、みんなお金のことばっかり考えて、仕事を楽しむのをやめちゃってるよね」
きっと草や木や動物たちと交歓しなくなった世の中は、人間をモノとして扱うようになり、仕事を苦役に変えてしまうのだろう。
