2026年4月25日(土)

つくりびととの談い

2026年4月25日

 「基礎的な技術は継承しなくちゃいけないけれど、基礎さえあればいくら応用したっていいんだよ。だけど、応用を固定化したら面白くない。応用は常に変化させていかなくちゃ、いいものはできない。応用を王道にしちゃいけないってことだね」

失敗も面白いものに転化
変化があるから進化できる

 三創楽器には、若き後継者がふたりいる。松村直太朗さん(22歳)と佐藤琳さん(23歳)である。

チェンバロの試奏をする佐藤琳さん。同じ種類の楽器でも、一つひとつ異なる響きや音色を持つ

 17年、岩上さんは厚生労働大臣から「現代の名工」の表彰を受けているが、若いふたりは名工の厳格な指導を受けているのかと思いきや、まったくそうではなかった。

 「自由にやらせてもらっています」(松村さん)、「社長は優しいし、いつも楽しそうにしているところがすごいと思います」(佐藤さん)。

 岩上さんが言う。

 「ふたりが失敗してくれるとさ、それがきっかけで面白いものに転化することがあるわけで、これが絶対に正しいなんて道順はないんだよ。道順を自分で考えるのが一番大切なことだから、彼らにはいつも、自分で考えてやってって言ってるわけ」

 岩上さんの言葉に触れるうち、真木悠介の名著、『気流の鳴る音』(ちくま学芸文庫)の中の難解な一節が、すとんと腹に落ちてきた。

 「殺風景な社会はかならず自己の周囲に殺風景な自然を生み出す。草や木や動物たちとの交歓を享受する能力は、同時に人間の関係性への味覚をしなやかに発達させる」

 岩上さんは、いまだに完璧な楽器を作ったことがないという。常に、まだまだ行けると思う。

 「たぶん、無限に続くんだろうね。若いころは〝仕事〟だったけれど、最近は〝遊び〟になってきたよね。変化があるから進化するわけで、そこが面白いんだけれど、みんなお金のことばっかり考えて、仕事を楽しむのをやめちゃってるよね」

 きっと草や木や動物たちと交歓しなくなった世の中は、人間をモノとして扱うようになり、仕事を苦役に変えてしまうのだろう。

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Wedge 2026年5月号より
造船立国ニッポンへ 「復活の号砲」を鳴らせ
造船立国ニッポンへ 「復活の号砲」を鳴らせ

かつて日本は世界一の建造量を誇ったが、現在、韓国、中国に大きく後れをとっている。 日本政府はここに来て、造船のテコ入れ開始を決めたが、その道のりは険しい。 島国である日本にとって、「海上輸送」がなければ企業活動も、生活も成り立たない。 日本の造船業が抱える課題や造船大国へと変貌した中国の実態と対抗策を示すと共に、 造船業は国家の「生命線」であることを改めて問い直す。


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