2026年2月28日に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃とそれに続くホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日量約2000万バレル─世界の海上石油貿易の4分の1─を一夜にして止めた。国際エネルギー機関(IEA)が「史上最大の供給途絶」と宣言したとおり、1859年に始まった近代石油産業における170年の歴史の中で最大の危機である。
また、一国の石油供給の大半を喪失するという事態に直面した国は、1991年のソ連崩壊後のキューバと北朝鮮、そして41年の日本くらいしかない。日本はいま、85年ぶりに同じ危機を2度経験する世界で唯一の国となった。
石油の供給回復手段は主に三つあるが、いずれも限界がある。第一に迂回ルート。サウジアラビアの東西パイプラインからヤンブー港を経由する紅海ルートには既に原油が流れ始めているが、積み出し能力は通常のホルムズ通過量の5分の1にとどまる。しかもフーシ派は19年にこのパイプラインをドローンで攻撃した実績があり、3月28日にはイスラエルに弾道ミサイルを発射、紅海ルートの安全は保証されない。
第二に備蓄。IEA加盟32カ国が約4億バレルの協調放出を決定したが、米国の放出ペースから推定すると、途絶量のおよそ3分の1程度を補填するに留まると考えられる。
日本はIEAの決定直前に過去初めて独自に備蓄放出を決断し、3月26日から国家備蓄の本格放出が始まった。石油備蓄は国家・民間・産油国共同備蓄を合わせて237日分だが、うち30日分は民間の運転在庫で、約1割は汲み出しが難しいタンク底のデッドストックである。既に備蓄は毎日約1日分、刻一刻と減り続けていて、時間稼ぎしかできない。
備蓄の対象外だが輸入に依存している石油製品の確保も急務である。例えばナフサはINPEXがインドに液化石油ガス(LPG)を供給し見返りにナフサを得る交換が検討されている。また重油(C重油)は石炭火力の起動や出力調整の助燃剤として不可欠で、政府が3月27日に発表した非効率石炭火力の1年間限定の稼働制限解除を実行するためにも、重油の安定確保が前提となる。
第三に他国からの調達。アラスカ、南米、カナダ、中央アジア、ロシアなどの国も、短期的に不足を補えるほどの輸出余力はない。唯一の短期的な選択肢として、マレーシア沖に停泊するイラン産原油を積んだ72隻のタンカーがある。元来マレーシア産と偽装して中国向けに輸出されてきたが、米国政府が一時的に制裁を緩和した結果、4月中旬までのホルムズ海峡途絶量の大半を埋め合わせる規模だ。ただし、これも一時的な措置に過ぎず、さらにイランの資金源となって戦況を悪化させる可能性もある。
