中国国境に近い地方都市カオバンに長逗留している中国人失業者
11月18日。カオバンは中国国境から南に58キロの距離にあるバン川沿いに発達した地方都市である。近年はバンゾック滝、グオムガオ洞窟、タンヘン湖などへの観光拠点として外国人ツーリストに人気の町となっている。
中国国境に近いこともあり、投宿したカオバンのホステルには中国人バックパッカーも多い。数日前にチェックインした時から見かけていた中国人と思しきL氏と挨拶した。中国人のバックパッカーは若者世代が多いので、長逗留している中年のL氏はやや異質な存在であった。
中国の地方出身者は標準中国語が苦手だが
テレサテンのヒット曲は歌える?
L氏は広西チワン自治区出身の漢民族で49歳。故郷は広西省の省都である南寧(ナンニン)の郊外。中国語で会話したが、L氏によると中国人でも一般的に地方出身者は標準中国語(普通語)を義務教育で学習するだけであり、日常生活は地方方言で会話するので標準中国語は苦手だという。どうも日本における英語教育と同じで、かなり優秀で熱心に学習しないと流暢な標準中国語は話せないらしい。ちなみに南寧周辺地域の方言は広東語と似ているので広州など広東省では意思疎通が容易とのことだった。
ちなみに筆者がユーチューブで台湾出身のテレサテンの代表曲『月亮代表我的心』の日本語バージョンを聴いていたら、L氏は標準中国語の原曲を見事に唱和した。テレサテン没後30年である。L氏が多感な十代の頃に流行した標準中国語の歌詞を彼は暗唱していたのだ。
余談であるが、筆者は20年前に北京の劇場で開かれた、テレサテン(鄧麗君)没後10周年記念コンサートに行ったことがある。テレサテンの代表曲を観客全員が歌うコーナーでは全員が起立して熱唱していた。歌唱が終わると、会場は割れんばかりの拍手で興奮の坩堝と化した。L氏の歌声を聞いて改めてアジアの歌姫テレサテンが中国大衆に伝えた“平和への願い”を思い起こした。遺憾ながら彼女の“平和への願い”というメッセージは習近平氏には届かなかったようだが。
低賃金・長時間サービス残業でも喜んで就職する若年労働市場
L氏は広東省広州の大手企業のITエンジニアとして長年勤務していたが、2年前に突然解雇を言い渡された。理由は開示されなかったが、40歳以上のITエンジニアの大多数が同時期に解雇された。
L氏は解雇については“仕方ない”と達観していた。L氏が勤務していた大手企業の管理部門の同僚から聞いた話では“数人のITエンジニアの募集”に対して数百人の大卒の若者が殺到するという。企業としては、最低賃金水準の給与で長時間のサービス残業を厭わず、深夜まで仕事をする若手エンジニアを新規採用して、代わりに40歳以上のベテラン技術者を順次解雇することでコスト削減を図っているという。
中国政府統計局が2025年9月に発表した雇用統計によると、現役の学生を除いた16歳から24歳の若年労働者の失業率は19%である。2025年の大学・大学院・専門学校の新卒者は1220万人であるが、上場企業の採用枠は数十万人であり圧倒的な買い手市場である。
L氏は、正規就労できない新卒者は、フードデリバリーやコンビニ店員としてアルバイト(打工)して糊口を凌いでいると指摘した。政府統計ではこうしたアルバイトも就労者として計上しているので、現実的な若年失業率は50%を超えているのが実態であると分析した。
筆者はフィリピン(2024/07/28掲載『【中国人既卒職女子に聞く】コネ・カネ目当ての若者共産党員、現代中国は特権階級支配社会』)やチリ(2025/08/17掲載『アルゼンチン・チリを席捲する中国の存在感『観光客と中国雑貨だけではない。基幹産業を支配する中国の超長期戦略』(前半)』)で中国人が経営する現地企業で働く中国出身大卒女子を思い出した。彼らは本国での就職を断念して実質賃金の高い海外就労に活路を求めたのであった。
