2026年3月22日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2026年3月22日

(2025.11.7~12.25 49日間 総費用13万7000円〈航空券含む〉)

社会主義国家における宗教政策とは

商家の仏壇、仏教と道教の混淆式。紙銭として玩具の米国ドルがお供え されていた

 ベトナムは共産党一党独裁の社会主義国家である。共産党員、即ちマルクスレーニン主義者は唯物史観から宗教を否定し、基本的には無神論者である。カール・マルクスは「宗教は民衆にとり阿片である」と断じている。

 ロシア革命により、ロシア正教は国家の庇護を失い、ソ連邦の支配下ではロシア正教は弾圧の対象となった。教会や僧院は長年にわたり日陰の存在として荒廃していた。プーチン大統領は就任当初からロシア共和国と自身への求心力を高めるために、ロシア正教の積極保護政策を採用。宗教を政治利用したのだ。筆者が仕事で頻繁にモスクワ訪問した21世紀初頭には、プーチンの肝煎りでモスクワ市内各地の教会や僧院が大々的に修復されていた。それゆえロシア正教指導者はプーチンのウクライナ侵攻を支持している。

 中国共産党は漢民族共産主義者による一党独裁の障害となる宗教を、徹底して弾圧抹殺してきた。チベット・内蒙古のチベット仏教、ウイグルのイスラム教、かつて2000万人の信者を擁した法輪功などへの非人道的行為を継続している。

 他方で共産党支配を容認する宗教指導者を懐柔して、管理下に置いて庶民の宗教感情の受け皿としている。中国では憲法上は信仰の自由を謳っているが、関連法令により“共産党の指導監督の下における信仰の自由”となっている。ベトナムでも憲法及び法令上では宗教の位置づけは中国と変わらない。

ベトナムにおける仏壇と仏教寺院は道教との混淆

 ベトナムでは南北いずれの地域でも一般の民家、商店やホステルなどでは一階の隅に仏壇が置かれている。毎朝線香が焚かれ果物や生花が供えられている。仏像の他に恵比寿様や大黒様など七福神に似たような道教に由来する像も一緒に祀られている。

 ランソンのキークン祠。仏教寺院であるが、仏像の隣に馬の像が祀られていた。祠の周囲では様々なお供え物が売られていたが、飾り付けされた仔馬の像が目を引いた。ベトナムの仏教寺院では仏像の他に風神雷神や七福神みたいな様々な像が祀られている。

 ミャンマー、タイ、カンボジアなどの厳格な小乗仏教信仰では考えられないような仏教と道教や民間信仰との混淆がベトナム大乗仏教の特異なところであろう。

ランソンの寺院で祈る人々。正座して両手を合わせる作法は日本と変わ らないが 熱心な人は最初に床にひれ伏してからお祈りを始める

現代ベトナムの主要宗教の信者数は摩訶不思議

 筆者の印象では、ベトナムでは総人口の大半が仏教・道教・民間信仰を混淆して信仰しているように思われた。尚、カトリック教もフランス植民地時代からの布教活動により一定の信者がいる。

 いくつか統計を見ると、ベトナム人は80%~86%が“無宗教”であると回答している。統計数字では仏教徒は1400万人で人口の13~14%。次いでカトリックが700万人で7%程度という割合のようだ。おそらく社会主義国家の国民としては“無宗教”と回答するのが無難という配慮も多少あるのだろうか。

 ちなみに、日本でアンケート調査したら3分の2以上の人は“無宗教”と回答するのではないだろうか。筆者が見聞した限りでは海外で日本人が外国人から「あなたの宗教は何ですか」とか「あなたは仏教徒ですか」と聞かれると大半の日本人は「無宗教」(No religion)とか「仏教徒ではありません」(I am not a Buddhist)と回答する。

 ところが、実際には日本人の大半はなんとなく仏教と神道を受容しており仏式の葬式や神社への初詣が生活習慣となっている。そして弁天様、恵比寿様、お地蔵様、富士山など八百万の神を分け隔てなく敬っている。そう考えると日本人とベトナム人の宗教観は非常に似通っているように思える。

「ベトナム人はパートタイマー・ブッディスト」

 11月26日。タム・コックの1705年創建の古刹ビックドン寺。麓の下寺から延々と石段を登り、丘の上にある上寺に至る。上寺で休憩していたら数組のオーストラリア人年輩夫婦が学生風のベトナム人ガイドに案内されて登って来た。

 熟年紳士が「ベトナムには歴史のあるお寺が多い。現在でもベトナム人は大半が仏教徒なのか」とガイドの青年に質問。青年は迷った挙句に「非常に答え難い質問です。大半のベトナム人は普段の生活では仏教をほとんど気にしていない。しかし、たまに寺院に行くとブッダにお願い事をする。つまりパートタイマーの仏教徒です」と回答。

 オーストラリア人一行は破顔大笑。件の熟年紳士は「オーストラリアのキリスト教徒と全く一緒だ。我々オーストラリア人は、キリスト教徒であると自認しているが、毎週日曜日に教会に行く人は稀だよ。つまりパートタイマー・クリスチャンだ」と解説した。

 12月10日。ニャチャンでハノイから旅行に来た旅行代理店勤務の女性にパートタイマー仏教徒のエピソードを紹介したら「ベトナム人はブッダに自分に都合の良いことをお願いするご都合主義(opportunism)仏教徒ばかり。ブッダにお供え物をして俗世利益の還元を求める“安易な仏教徒”(easy Buddhist)です」と辛口の解説をした。

ハノイの下町の公営葬儀場の前で出棺を待つ人々。中央左の男性は頭に 白いハチマキのような布を巻いており親族のようだ

いきなり喪服姿の人々が、ハノイ下町の公共葬儀場

 12月11日。ハノイの旧市街近くの下町の大通り。数十人の黒い上着や白シャツに黒いネクタイ姿の人々が現われた。その後に黒塗りのステーションワゴンが門から出てきた。喪服姿の男たちが棺を抱えて現われステーションワゴンに積み込んだ。

 門の奥の大きな建物には仏像や十字架など特定宗教を示すものは見あたらない。どうも公営葬儀場のようであった。


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