元米国家安全保障会議(NSC)アジア部長ビクター・チャがForeign Affairs誌の5/6月号に寄稿し、北朝鮮の核問題に対する米国の従来の戦略はすでに行き詰まっているとして、非核化を「長期目標」に棚上げした上で、北朝鮮との軍備管理交渉に入ることを提唱している。要旨は次の通り。
1.旧来のアプローチは成果を上げられなかった
今や北朝鮮は50発の核爆弾を保有し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や第二攻撃能力としての潜水艦発射弾道ミサイルの開発を進めるなど、米国本土を含む広範な地域に対する核攻撃能力を有している。さらにロシアとの軍事協力で技術的制約の克服も進み、北朝鮮の核・ミサイル戦力は質・量ともに拡大を続けている。
これに対し米国は長年、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)を政策の柱とし、制裁と段階的な見返りを組み合わせた交渉を展開してきた。しかし、政権交代に伴う方針の不連続性や関心の低下、北朝鮮の度重なる合意違反等により、こうした取り組みは成果を上げられなかった。
北朝鮮が本質的に核放棄の意思を持たないことは明らかだ。金日成から金正恩に至るまで、北朝鮮の指導部は体制維持の最終保証として核兵器を位置づけ、いかなる犠牲を払ってもこれを保持する方針を一貫して維持してきた。
2.新たな戦略が必要
近年、北朝鮮は核保有を憲法に明記し、その地位を不可逆的なものとして内外に示した。北朝鮮のICBMの一部は米本土に到達する射程を有している。また中国やロシアとの関係強化により、経済的・軍事的支援を確保し、交渉上の立場も大きく改善している。
その結果、「非核化を前提とする交渉」は現実味を失い、むしろ米国の安全保障上の緊急課題への対応を阻害している。加えて、北朝鮮は、核兵器の重点を防衛から攻撃における使用へと移しており、誤算や偶発的衝突による核エスカレーションの危険性はかつてなく高まっている。
こうした状況を踏まえ、米国は、非核化のみに焦点を当て、制裁に過度に依存する旧来のアプローチを捨て去るべきだ。非核化は長期的目標として維持するが、それが国土防衛、米国の敵対国の削減、北朝鮮による先制核攻撃の可能性の極小化、中露朝関係に楔を打ち込み北朝鮮の戦略的余地を狭めるなど、より差し迫った国家安全保障上のニーズの妨げとならないような新たな戦略が必要だ。
3.「非核化」ではなく「冷たい平和」を
そのため北朝鮮との交渉に当たっては、非核化を前提条件とするのではなく、被害の最小化とリスク管理に重点を移すべきだ。軍備管理協定、核実験とミサイル生産の制限、危機管理メカニズム、そして核兵器や核技術の他国への移転禁止について、平壌との対話を開始すべきだ。
すなわち、全面的な関係正常化には至らないものの、対話を維持しつつ緊張と衝突を管理する「冷たい平和」を構築することが最も現実的な選択である。
