2026年7月18日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年7月18日

 弘法大師生誕1250年記念特別展「空海と真言の名宝」が、2026年9月6日まで、東京国立博物館平成館特別展示室にて開催されている。

 これほどの規模で空海が再び注目を集めるのは、単なる宗教的な行事ではない。政治、外交、教育、土木、芸術——あらゆる分野に爪痕を残したこの男の生涯には、今の時代を生き抜くためのヒントが詰まっているからだ。

 空海とは何者だったのか。その問いに正面から向き合った一冊が、『空海に秘められた古寺の謎』(山折哲雄編、ウェッジ)だ。その答えは、本書を開けば自ずと見えてくる。

真祖八祖像のうち空海(国立文化財機構所蔵品統合検索システム)

日本初のルネサンス人——空海が持ち帰ったもの 

 弘法大師空海(774〜835年)は、奈良時代末に讃岐国(現・香川県)で生まれた。父は地方官僚の佐伯氏、母は学者一族の阿刀氏の出身という家柄だ。幼名を「真魚(まお)」といい、18歳で中央の大学寮に進学し官僚を目指した。しかし彼はその道を捨て、山野を駆け巡る私度僧としての道を選ぶ。

 空海のターニングポイントとなったのが、804(延暦23)年の唐への留学だ。当時の遣唐使船での渡航は、文字通り命がけの旅だった。そのリスクを冒してでも彼が唐に渡ったのは、自ら「秘門(秘密の法門)」と呼ぶ密教の真髄を身につけるためだった。

 長安に入った空海は、密教の第一人者である恵果和尚に師事。わずか数ヶ月で後継者として認められ、膨大な経典・仏像・仏具、そして精緻なマンダラ世界を携えて帰国した。シルクロードを渡って凝縮された学術・芸術・技術のエッセンスを丸ごと日本に持ち込んだのである。


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