イラン戦争の勃発から3カ月。国内で騒がれるのは石油化学の基礎原料ナフサの「目詰まり」だが、経済産業省は流通の全体像を把握しつつある。
タンカー追跡サービス「Vortexa」によれば、5月の日本のナフサ輸入は前年同月比で9割以上まで回復した。原油調達も中東の迂回ルートと米国産を軸に8割程度まで戻る見通しで、備蓄の取り崩しを抑えれば来年まで供給の目処は立つ。
率直に言って、政府の危機対応は評価できる。制御不能な中東情勢の中でパニックを防ぎ、当面の供給を確保した手際は悪くない。
問題はその先だ。このままではガソリン価格も電気代も補助金で抑えられ、多くの国民がホルムズ海峡の危機を肌で感じず過ぎ去る。このような国は世界に例がない。日本は補助金で本当の危機が見えない〝夢の国〟になっているのではないか。危機を実感せずには、何も学べない。
「実感なき危機」は、何も学ばないどころか、ガソリンをはじめ、例えば、過剰包装・過剰印刷ともいえる食品用プラスチック製品などを使い続ける社会、すなわち〝既存路線〟を正当化し、衰退しつつある産業の延命にただ「安全保障」の大義を与えるだけになりかねない。
電気事業連合会の森望会長は4月、「脱炭素は一度立ち止まるべきだ」と化石燃料による安定供給を訴えた。日本貿易会の岡藤正広会長(伊藤忠商事会長CEO)も5月、資源事業は一企業のリスク許容を超え、国の支援なしに中国などに対抗できないと踏み込んだ。石油化学の救済やナフサの国家備蓄を求める声も、安全保障の名のもとに遠からず上がるだろう。
これらの主張には一定の理があるが、根幹にある脱・輸入資源依存という問題意識が抜け落ちている。
ところが当の高市早苗首相自身は、総裁選の出馬会見で「化石燃料に頼って国富を流出させ、資源国に頭を下げる外交を終わらせたい」と述べ、かねて「エネルギー自給率100%」を掲げてきた。その理想に照らせば、輸入依存を直接断つ再エネと、石油消費を抑える電気自動車(EV)にこそ最も光が当たってよいはずだ。原子力でさえ、燃料のウランは全量輸入に頼っている。
