イスラエルの占領が続くレバノン。一体人々は何に苦しみ、何を求めているのか。『イスラエル軍に連れ去られた行方不明のレバノン人たち』に続き、5月下旬のレバノン取材について報告する。
2つの勢力のはざまにいる人たち
ハルタ地区を含むカファルシュバ村は、ヒズボラとイスラエルの間で複雑な立場に置かれている。
村人の一人が、周辺を案内しながら教えてくれた。
「あの山の赤くなっているところは、イスラエル軍に焼かれた場所だ。今は立ち入りができない。その前はヒズボラが支配していて入れなかった」
村の人は、自分たちの置かれた状況をこう表現した。
「前はヒズボラに、そして今はイスラエルに支配されている」
村のいくつかの場所からは、丘の頂に立てられたイスラエル軍の旗がかすかに見えた。
村長のカーシム・カダリが語る。
「昔は、パレスチナへの連帯から、イスラエルに対する抵抗運動を支援しようという動きもあった。でも今は、力の差があまりにも大きい。このままイスラエルを相手に戦い続けるのは無謀だ」
この村のスンニ派の人にも、少数ながらヒズボラを支持し、戦闘員になる人もいたという。イスラエルに対抗し、パレスチナの大義を掲げるヒズボラの思想に共感した人もいれば、戦闘員としての給与に惹かれた人もいた。理由はさまざまだったと、村の人は話す。
しかしその状況は変わっていった。2024年にヒズボラとイスラエル軍が衝突した時に、ヒズボラとの関係がこの村の将来を左右すると証明されている。当時、村の中にいたヒズボラ戦闘員の存在を理由に、イスラエル軍は村の一部を攻撃した。
2カ月の交戦の末、イスラエルとレバノン政府の間でいったん停戦合意が結ばれた。そして、合意に従ってヒズボラはこの村から撤退した。
現在、カファルシュバ村にはヒズボラが存在しないことから、今回は村への直接的な攻撃は免れている。ヒズボラがいなければ自分たちは攻撃されないということを村の人たちは実感した。
それでも、アティーフ一家のように突然拘束されたり、イスラエル軍に多くの農地への立ち入りを制限されたり、パトロール中のイスラエル軍に住民が殺害される事件も起きている。さらに、給水設備も破壊され、その修理に向かうことさえイスラエル軍によって禁じられている。
「イスラエルは、イスラエルとレバノンの間に緩衝地帯をつくるため、私たちをこの村から追い出したいのだろう」
村長はそう解釈していた。
住民たちは、ヒズボラ側でも、イスラエル側でもどちらかについているわけではない。二つの勢力のはざまで、板挟みになって生きる人々がいるのだ。
