大都会に深く根差すその木は、この世の希望も絶望も、全て包含しているかのようだった──。推定樹齢750年の巨木は80年前「戦災樹木」となった。折しも日米関係の礎が築かれた寺で、木は何を見たのか。時代の番人として生き続ける「逆さイチョウ」を紹介する。
まさか麻布に、湧き水が
「先生さようならーまた明日!」
「バイバーイ、また明日ねー!」
東京の一等地、麻布十番の閑静な住宅街。平日の昼下がり、子どもたちの声が境内の静けさを破る。幼稚園が併設される麻布山善福寺で、賑やかなひとときに出くわした。
南北線の麻布十番駅から徒歩5分。最初は、道案内するスマホを握りしめていたが、二つ目の角を曲がったところで画面を閉じた。こんもりとした緑の茂みに、目的地を確信。背後にそびえ立つのは、元麻布ヒルズだ。
参道に入り、お目当ての木まで一目散! となるはずだったが「柳の井戸」と書かれた看板の前で足が止まった。(……ん? 湧き水? こんな都会のど真ん中に!?)
水面をのぞくと、たしかに、水がこんこんと湧いている。横には柳が一本。看板によれば「弘法大師 空海が錫杖を地面に突き立てたら噴出した」等々、諸説あるらしい。続けて、こうあった。
