戦争体験者が減りゆく日本で「最後の生き証人」として戦争の痕跡を生々しく伝える戦災樹木。しかし、その存在はあまり知られていない。なぜ物言わぬ樹木が「語り部」となり得るのか。『甦る戦災樹木 大空襲・原爆の惨禍を伝える最後の証人』(さくら舎)の著者であり、明治大学農学部准教授の菅野博貢氏を訪ねた。
第1回はこちら:長岡空襲を生き抜いた桜(新潟県)
日常に溶け込む戦争遺産
約10年前より戦災樹木にいち早く注目し、調査を進めてきた菅野博貢氏。神奈川県川崎市にある明治大学生田キャンパスの農学部に環境デザイン研究室を構え、造園学、緑地計画、都市計画を専門とする。海外の都市景観にも精通する菅野氏だが、戦災樹木の研究を始めたきっかけは、妻であり共同研究者の根岸尚代さん(現・日本大学生物資源科学部 助教)の博士論文研究だったという。
「博士論文のテーマを何しようかと話していた時、偶然手に取ったのが『よみがえった黒こげのイチョウ』(唐沢孝一著・大日本図書)でした。さっそく、その本で紹介されていた富岡八幡宮(東京都江東区)に行って驚きました。こんな身近に戦争の痕跡があったのかと。しかしまだ学術研究としては、ほとんど手つかずで、ならば取り組もうとテーマに据えたのが2014年のことです」