「Well Fed」。飽食の裏に潜む途上国の実態を映すその映画は、2017年にオランダで制作された。スクリーンに自ら登場する監督、Karsten de Vreugd(以下、カーステン氏)は、ひょんなことで知り合った友人の科学ジャーナリスト、Hidde Boersma(以下、ヒッデ氏)と、遺伝子組み換え(GM)作物をめぐる探る旅に出た。
GM作物に反対する国際環境NGOグリーンピースのメンバー、反対派から転向したことで知られる英国の環境保護活動家Mark Lynas(マーク・ライナス)氏、遺伝子組み換えナスを栽培するバングラデシュの生産者など、さまざまな人に会い、話を聞き、現場を見ながらGM作物栽培の真相に近づいていく。「Well Fed」(日英字幕つきで無料公開)はその記録を収めたドキュメンタリーだ。
農業先進国・オランダで生まれた本作は、米国、ベルギー、エストニア、セネガルなど世界各地で上映会が開かれ、今もカーステン氏とヒッデ氏の旅は続く。日本では、食・科学ジャーナリスト・小島正美氏の主催で今年6月から9月にかけて、北海道、東京、京都の3カ所で上映会が行われた。9月には、オランダから両氏が来日し、日本の生産者や農業技術の研究者らと意見を交わした。
ことGMと言うと、賛成か、反対かとすぐに立場を問われる。だが、そう簡単に二分できるものなのだろうか。対立の溝が深まるほど議論のテーブルからは遠ざかる。
上映会後、単独インタビューに応じたカーステン氏とヒッデ氏は熱く本音を語った。GMをめぐるオランダの実情、そして日本にも共通する課題とは。
なぜ、今、遺伝子組み換えの映画ができたのか
GMを扱った作品と聞くとまずスポンサーが気になる。GM種子を扱うアグリビジネスメーカーか。はたまた、反対派の団体を支持する組織か──。だが、本作はあくまで独立した視点を守るため、ジャーナリスト向けファンドから5万ユーロの資金を得て制作されたという。
そもそも監督のカーステン氏はGMに対し、当初、否定的な立場をとっていた。それなのに、なぜ自身初となるドキュメンタリー映画を(しかも儲けなしの制作費で)作ることになったのか。カーステン氏はその経緯を次のように話す。
「ある日バーでお酒を飲んでいるときに、ガールフレンドに家を追い出されたヒッデ(ジャーナリスト)に出会いました。しばし、彼をかくまうことになったのですが、わが家のソファで寝泊りしながら、ヒッデはずっとこう言っていたんです。『なぜGMは理解されないのか。こんなにも素晴らしい技術なのに』と。でも、私の周囲で彼の他にGMに肯定的な人はいませんでした」。
ヒッデ氏は大学では分子生物学を専攻し、博士号を持つ人物だ。だがバイオテクノロジーに精通した彼の言うことをカーステン氏はすぐに受け入れることはできなかった。
「ヒッデは『多くの人は事実を見ようとしていない。事実を知れば、皆、納得してくれるはずだ』と言っていました。でも人々は事実よりストーリーを好むものです。科学の話は退屈だと思っている人たちに、いくら事実を並べても届きません」。
一方、ヒッデ氏もかねてから抱いてきた疑問を投げかける。
「GMと言うと、すぐにモンサント社など特定企業に結び付けられてしまいます。多くの人々は科学とマーケティングの話を区別していないのではないでしょうか」。
その技術を商業的に利用する以上、両者を完全に切り離すことは難しいだろう。本作はモンサントへの抗議デモの様子も映すが、デモ隊の一人は「GMに賛成か反対かではなく(GM自体に反対ではなく)技術を誰がどのように何のために使うかが問題だ」と話す。同時に彼らは「NO GMO」のプラカードを掲げている。