2024年11月23日(土)

WEDGE REPORT

2022年10月29日

 DNAが世代をこえて子孫に伝わる「垂直伝播」に対し、同種の個体間や多種の生物との間で移動することを「水平伝播」という。ゲノム解析が進んだことで、予想以上に自然界では水平伝播が起こっていることも明らかになってきた。その代表的なメカニズムの1つ、ウイルス感染による水平伝搬は、ヒトでも起こっている。

 驚くことにヒトを含め、あらゆる動物の進化の過程で水平伝播が起こっていることも分かっている。作物の例としては、サツマイモにアグロバクテリウムという細菌を介した遺伝子導入が起こっていたことが15年に報告されている(「The genome of cultivated sweet potato contains Agrobacterium T-DNAs with expressed genes: An example of a naturally transgenic food crop」)。いわば「自然界がつくったGM作物」と言えるだろう。

「これは価値観の問題」

 生物多様性の観点から野生の動植物への影響を懸念する声も依然としてある。野生に近縁種がある場合はたとえ交雑しても、野生種への影響がないことを確認するなど、栽培したとしても問題ないものでなければ実用化できない。また、花粉や種子を通さないネットで隔離する物理的な措置のほか、交雑を抑制する技術の開発も進められているが、技術的にカバーされたとしても、反対の声はなくならいだろうとヒッデ氏。

 「真実よりも、彼らのGMに対する捉え方がそうなのであって、これは価値観の問題だと思います」。続いてカーステン氏は「大事なのは善悪を決めることではなく、技術の使い方を議論することであり、そのために科学的な事実が大切なのです」語る。

 「GMに全く問題がないとは言い切れません。でもそれは、どんな技術にも言えることです。人類が火を恐れながらも、火を利用してきたように、新しいものに対する恐れは、いつの時代も人間が抱く自然な感情でしょう。ただ、問題があるからと言って、その技術から目を背けるのは違います。問題が解決されないからと言って、Btナスで生活するバングラデシュの人たちの手段を奪ってしまっていいのでしょうか。今ある技術を必要とする人に届けることも同時に考えなければなりません」。

 かつて世界の最貧国と言われたバングラデシュの実情をその目で見たカーステン氏の言葉は熱を帯びる。スクリーンの中では彼の心がBtナスを機に大きく揺れ動いたように見えた。

映画「Well Fed」冒頭の映像(Bertolt Brechtはドイツの劇作家、詩人)

 GMは「長期的な影響が分からない」と言われてきたが、1996年に商業栽培が大規模に開始され、すでに25年以上が経つ。日本は米国やカナダなどからGM作物を輸入し、食用油の原料や家畜の飼料などに使っている。日本に輸入されるトウモロコシ、ダイズ、ナタネの約9割はGMと推定されている。私たちの〝飽食〟とも決して無関係ではなく、アンタッチャブルな話題として避け続けるわけにもいかない。

 後編では、GM作物をめぐるコミュニケーション課題について両氏の見解をもとに考える。

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