2022年10月6日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年8月11日

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 品種の育成者に知的財産権を認め、その権利を保護する改正種苗法が今年4月、ひっそりと完全施行された。一時〝農家を苦しめる改悪〟だとして反対運動が盛り上がっていたものだ。その喧騒が過ぎ去り、今起きていることとは。

(kazoka30/gettyimages)

年間100億円以上を失ったシャインマスカットの許諾料

 高級ブドウの代表格で黄緑色の大粒の実をつける「シャインマスカット」。その大産地は、いまや日本ではなく中国である。農林水産省は2022年5月、中国への無断流出による損失額を推計したところ、年間100億円以上に達していると発表した。本来なら品種の育成者である農研機構に支払われるべき許諾料(ロイヤルティー)を、出荷額の3%として計算すると、この額になるという。

 国内で育成された種苗が中国や韓国に流出する状況に、さすがの農水省も事態を放置しておけないと、対策に動いた。海外への無断流出を断ち切るために計画したのが、種苗法の改正だ。2020年3月に改正案を国会に提出した。

 ところが、意外なことに反対運動が盛り上がる。その結果、後ほど述べるように改正案はしばらく棚ざらしにされてしまった。

 ここで、種苗法の概要とその改正の経緯について説明したい。この法律は、植物の品種の開発者に、知的財産権である「育成者権」を認め、種苗や収穫物、一定の加工品を利用する権利を専有すると定めるなど、その権利を保護することをうたっている。

 新しい品種を生み出すには、長大な年月と多大な費用、人材が必要になる。期間だけでいっても、ふつう10年はかかるとされる。「シャインマスカット」の場合はそれより年月を要し、18年かかった。

 これだけの多大な投資を必要とするのに対し、一部の作物ではその複製がいとも簡単にできてしまう。例えばイチゴは株から伸びるランナーと呼ばれる茎の先に新たな株を生じる。ジャガイモは、収穫物の一部を次の年の種芋にすることができる。

 このように、収穫物や株の一部を種苗として次の作付けに利用することを「自家増殖」と呼ぶ。自家増殖により、育成者権の侵害は簡単に起こり得るのだ。

 育成者権が及ぶのは、育成者が種苗法の品種登録制度に基づいて登録した「登録品種」に限られる。それ以外は「一般品種」と呼ばれる。これは、古くから国内に存在する在来種のほか、開発したものの品種登録に至らなかったり育成者権を保護する「品種登録期間」が切れたりした種苗などのことである。

 種苗法は1998年の公布以来、改正を重ねるごとに育成者権の保護を強化してきた。それでも、最新の2020年の改正前までは「登録品種」の扱いについて課題があった。

 「登録品種」を自家増殖し、海外に持ち出すことは、今回の改正前から禁じている。ところが、日本で購入した種苗を海外に持ち出すことを禁じていなかった。このことは、種苗を無断で流出させる原因の一つになっていたはずだ。

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