2022年11月26日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年8月11日

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必要だった改正による水際対策の強化

 種苗の保護を定めた国際条約に「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」がある。同条約では、品種の開発者に対して認める知的財産権である「育成者権」は国ごとに登録することになっていて、世界規模で一括登録できる仕組みはない。だから、海外で品種登録されていないと、その国での育成者権を主張することができない。国内の少なからぬ育成者が、この国境の壁に泣かされてきた。

 したがって、海外で品種登録することは無断流出を防ぐ有効な手立てだ。実際、国内の産地では花形の新品種を市場に出す前に、海外での登録手続きをとるようになってきたし、農水省も推進のための予算をつけている。

 ただし、いくら農水省が支援してくれるといっても、経費を全額出してくれるわけではない。加えて、登録の手続きには時間も手間もかかる。育成者が農研機構や都道府県なら、海外で品種登録をするための予算や人手を確保することもできよう。ただ、登録品種の2割を生み出す個人育種家となると、こうした負担は重荷になる。

 そこで、農水省は今回の改正案で、育成者が栽培地域を特定の県に限定したり、日本国内に限定するといった利用条件を付し、違反があれば育成者権の侵害だと訴えることができるという規定を付け加えた。また、農家の自家増殖は育成者の許諾を得て行うと明記した。

 より手厚く育成者権を保護し、より優れた品種の開発を促しつつ、海外や産地外への種苗の無断流出を阻止する――これが種苗法の改正の主眼である。

 種苗法のこれまでの改正の流れを踏まえれば、もっともな帰結である。だが、それを否定する反対運動が巻き起こった。その影響で、改正法が22年4月に施行されてからも、それまで通りの自家増殖を認め許諾を求めない事例が、とくに都道府県の育成した品種に多い。改正の目的が達成されていない事態になっている。

 農業の知的財産の一つである種苗を保護するための法改正であるというのに、なぜ反対が沸き起こったのか。まずは当時起きた出来事から振り返っていきたい。

なぜか改悪と騒がれた種苗法

「#種苗法改悪反対」
「#日本の農家を守れ」

 こんなスローガンやハッシュタグが20~21年にかけて、ネット上にあふれかえった。これらの批判には、改正案を踏まえない感情的なものが多く、報道も事実を曲解したものが少なくなかった。

 育成者権を守るという視点も、往々にして欠落していた。最も極端な反対論は次のようなものだ。

「日本の農業が海外のバイオメジャー(独バイエル、米ダウ・デュポンなど種苗や農薬を販売する大企業)に乗っ取られる」
「日本でも遺伝子組み換え作物ばかりが作られるようになる」
「改正によって、バイオメジャーが日本の既存の品種を自社で開発したものとして登録できるようになる」

 いずれも、以下に指摘するように、日本農業に対する現状認識が間違っている。

 そもそも日本には、遺伝子組み換え作物の栽培が普及する素地がない。それは、環境保護団体の反対にあうなどして栽培できない環境にあるからだ。消費者の遺伝子組み換え作物に対する嫌悪感も強い。現状のままでは農家が生産できる見込みはない。

 日本で種苗が海外企業に独占されると考えること自体、国内の種苗業界に対する過小評価に他ならない。日本の種苗会社は世界に伍せる力量を持っている。サカタのタネとタキイ種苗は、野菜種子のシェアが世界的に高く、世界の種苗会社の売上高ランキングでトップ10に入っているのだ。

 日本の種苗の市場は成長が望みにくく、国内企業ですら海外に活路を求めている。そんな時代に、バイオメジャーが巨万の富を生める余地が、日本にあるのだろうか。反対派は種苗法の重要性を理解するのを拒んでいた。

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