2022年10月6日(木)

食の「危険」情報の真実

2022年8月9日

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小島正美 (こじま・まさみ)

食・科学ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員

1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後、毎日新聞社入社。松本支局などを経て、東京本社・生活報道部で主に食の安全、健康・医療問題を担当し、2018年6月末で退社。「食」をテーマとして活動するジャーナリスト集団「食生活ジャーナリストの会」代表。主な著書に『みんなで考えるトリチウム水問題』(エネルギーフォーラム)、『メディア・バイアスの正体を明かす』 (エネルギーフォーラム新書)など多数。

 遺伝子組み換え(GM)作物やゲノム編集食品などに対する市民の「漠然とした不安感」が、いつまでたっても緩和されない。一体なぜなのか。その主な要因は市民重視の報道の構図と記者の行動原理にあるのではないか。ただ、最近は誰もが情報を発信できるネットの出現で、この構図が揺らぎ始めている。

(wellphoto/gettyimages)

ゲノム編集食品で取り上げられる〝不安〟

 不安を印象づける記事例を挙げてみたい。今年4月20日付の毎日新聞に載った「『ゲノム編集フグ』中止を 宮津・ふるさと納税返礼品 コープ自然派京都、市に要望」との見出しの記事だ(写真参照)。

 現在、京都府宮津市では、世界でも最先端を行くゲノム編集フグ「22世紀ふぐ」がベンチャー企業によって飼育されている。このフグが昨年12月、地元宮津市のふるさと納税返礼品になった。これに反対する生活協同組合コープ自然派京都が返礼品の取り扱いを中止するよう求めた陳情に関する記事である。

 市民運動の動き自体を報じるのはよいだろう。問題は中身だ。記事には「ゲノム編集の食品は安全性が確認されていない」「ゲノム編集食品を食べ続けて、どのような影響が出るのか、ゲノム編集作物・動物が環境にどのような影響を与えるのか、検証が不十分」「宮津の素晴らしい海の幸とゲノム編集された『22世紀ふぐ』が並ぶことに違和感を覚える」「ゲノム編集食品が安全かどうかは世界でも誰もわからない。しかも表示義務がないのが現状で、子どもをもつ親として心配でならない」といった反対派の言葉がそのままずらずらと書かれている。要するに反対派の声だけで埋め尽くされている記事である。

 同様の記事は1週間ほど後になって、京都新聞にも掲載された。ここでもやはり市民グループの言い分が大きくそのまま掲載されている。

市民は神様なのか?

 この種の記事は今に始まったわけではない。かつて神戸新聞に「遺伝子組み換え作物は発達障害の原因になり、腸内細菌を乱し、精子にも影響する」といった記事が出たことがある。このときも生協の人たちが主張する言い分がそのまま載っていた。

 この種の記事を読んでいて、つくづく思うのは、なぜ、記者たちは市民グループの主張だとそのまま載せるのか、という不思議さである。日頃、記者たちは「政府の言うことを鵜呑みにするな。批判的な視点を持て」と教育されている。ところが、相手が市民だと、何ゆえにこの批判的な目が鈍ってしまうのだろうか。鈍るどころか、記者たちは市民グループの言い分を鵜呑みにして記事を書いている。

 これではまるで市民は新聞やテレビにとって神様のような存在ではないか。

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