食の安全 常識・非常識

2022年5月14日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 筆者は生協などによく講演を頼まれるのですが、除草剤グリホサートとネオニコチノイド系殺虫剤は、質問が相次ぐ2大農薬。「発がん性が……」「はちが死ぬ……」「諸外国はみんな禁止になっているのに、日本は残留基準値を上げた……」などと質問責め。残念なことに間違った情報も広がっています。

グリホサートは、田植え準備で行う田起こしの前や、畑で種まきをする前、雑草を枯らすために用いることが多い(taka4332/gettyimages)

 そこで、二つの農薬について解説しましょう。今回は、「発がん性疑惑農薬」などと喧伝されるグリホサートをめぐる科学的事情と海外の状況を詳しくお伝えします。非常に複雑です。でも、これが科学なのです。

登録されてから30年以上経過した除草剤

 グリホサートは、米国モンサント社が開発し、日本では1980年に農薬として登録された除草剤の成分名称です。非選択性、つまりあらゆる作物、雑草の区別なく枯らす作用を持ちます。「グリホサートはベトナム戦争で使われた枯葉剤だ」という情報がネットにはありますが、これは荒唐無稽。グリホサートは枯葉剤とはまったく異なる化学物質です。

(出所)食品安全委員会評価書 写真を拡大

 グリホサートは「シキミ酸経路」という、微生物や植物は持っており哺乳類にはない生合成系に作用し除草効果を示します。世界各国の安全性評価機関が「適切に使用すれば安全」と認めてきました。

 以前からよく使われてきましたが、96年にグリホサート耐性を持つ遺伝子組換え作物の栽培が始まり、使用量が急増しました。現在は、百数十カ国で登録認可され、世界でもっとも使用量の多い除草剤成分です。

 グリホサートは成分名なので、農薬としての製品名はさまざま。日本でも100以上の製品が売られています。その中でも、ラウンドアップというブランドの製品がもっとも有名です。

 日本では主に、果樹園の雑草を枯らしたり、水田で田植え準備のため、土を耕す「田起こし」の前や、畑で種蒔きをする前の雑草防除に用いられています。

 ちなみに、グリホサートは日本では、〝農薬として使用することができない除草剤〟製品の成分としてもよく使われています。これらは、農作物等の栽培・管理や、公園、緑地等の管理には使えませんが、道路やグラウンド等では使ってよい製品です。ホームセンターなどによく売ってありますので、気づかぬまま家の前の道などにグリホサートを便利に使っている市民も実は少なくないでしょう。

 しかし、このグリホサートが現在は、発がん性を疑われています。これには二つの大きなきっかけがありました。

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