2022年7月6日(水)

食の安全 常識・非常識

2021年12月9日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 前回「「食塩過多」に「ダイエット」…… 日本が抱える深刻な栄養課題」で、厚生労働省の設置した「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」にて、事業者の取り組みを中心とした異例の報告書がまとめられたことを紹介しました。食品をどのように選び食べてゆくかは本来、個人の裁量です。国内の農林水産物生産者や食品企業は、消費者の嗜好に合う製品を販売し売上を伸ばしてゆくことに腐心してきました。

 しかし、世界の潮流は大きく変化したようです。消費者迎合型ではなく、企業が率先して栄養改善と健康構築に製品やサービス面から取り組み、その動きが消費者を変える時代が来ています。

(jdwfoto/gettyimages)

 日本企業は残念ながら、対応が遅れています。さらには、欧米型の取り組みが世界で幅を利かせ、日本企業が正当に評価されず海外市場を失いかねない懸念も生じています。2回目は、世界の今と日本の隘路(あいろ)を解説します。

肥満飽食と飢餓、栄養の二重負荷に直面する世界

 2015年の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、17の目標と169のターゲットが制定されました。目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」など栄養改善の取り組みは、極めて重視されています。19年には国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が「持続可能で健康的な食事の実現に向けた指針」を公表しました。

 世界で今、大きな問題となっているのは「栄養の二重負荷」です。過栄養・飽食による肥満と、低栄養・飢餓の両方が世界で深刻化し、個人や世帯、集団内でも同時に問題として存在しています。

 経済協力開発機構(OECD)「 Health Statistics」によれば、主な国の15歳以上の世代の肥満率(BMI=30以上)は米国で40%、豪州27.9%、英国26.2%、フランス17%、スウェーデン13%、日本4.2%です。日本はもっとも低い国に位置付けられています。

 一方、FAOによれば、低栄養 (undernourishment)の割合は、欧米、日本など先進国はおおむね3%。ソマリア60%、ハイチ47%、イエメン45%、イラク38%、モザンビーク31%、インド15%、フィリピン9%などとなっています。

 そして、同じ国で肥満や低栄養による貧血、発育阻害などが重なって生じています。肥満は所得の高い国だけの問題ではありません。所得の低い国では、栄養に偏りがありエネルギー量の高い加工食品などを多く摂取し、価格が高めの生鮮食品などを含むバラエティに富んだ食生活を送れないことが肥満者の増大につながっている、とみられています。

世界では、過体重と貧血、発育阻害が重なって問題となっている国も多い(出所)Global Nutrition Report2018 写真を拡大

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