食の安全 常識・非常識

2021年4月8日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

(maroke/gettyimages)

 農林水産省が「2050年までに、化学農薬の使用量を50%低減/化学肥料の使用量を30%低減/耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大」などの計画案を打ち出しました。現在、パブリックコメントが行われています。EUを見習ってのグリーン政策ですが、根拠に欠ける目標値、文言が並び、関係者からは「目標達成は絶対に無理」「EUの猿まねをしてどうする?」などと、悪評ふんぷんです。

 食の安全の専門家からは、「このままではカビ毒汚染などが増えるおそれがあり、食の安全が脅かされかねない」という指摘も出てきています。今年9月に開かれる国連食料サミット向けのポーズなのか、あるいは、選挙を間近に控えたポピュリズムか。2回に分けて、計画案の問題点を詳報します。

目標は、化学農薬5割減、有機農業面積25%

 農水省が検討しているのは、「みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~」。省内で2020年、戦略本部が設立されて検討が始まり、関係者との意見交換を経て21年3月に中間とりまとめを発表。3月30日から4月12日までパブリックコメントを実施し、5月には戦略を策定予定。急ピッチで進んでいます。

 災害や温暖化に強く、生産者の減少やポストコロナも見据えた農林水産行政を推進してゆく必要がある、とし、「持続可能な食料システムは、生産者だけでなく事業者、消費者の理解と協働の上で実現するもの」と勇ましい。それには、関係者の行動変容とイノベーションが必要だとして2050年までの中長期的な戦略を打ち出しています。KPI(重要業績評価指標)の主のものは、次の通りです。

 農水省は計画検討にあたって、国連の持続可能な開発目標(SDGs)と共に、EUが2020年5月に策定した「Farm to Fork Strategy」(ファーム トゥ フォーク、農場から食卓までの戦略)で化学農薬・化学肥料の削減目標を示したことを強調。「我が国も国際環境交渉や諸外国の農薬規制の拡がりにも的確に対応していく必要がある」としています。

 EUは、2030年までの化学農薬50%削減、肥料の20%削減、有機農業面積25%以上という目標を掲げており、農水省のKPIは、目標年次がかなり遅いものの数字はよく似ています。

有機農業は現状、0.5%しかないのに

 では、これらの目標は可能なのか? (3)の有機農業面積100万ヘクタール(ha)を事例に考えて見ましょう。

 現状、日本で有機JAS認証を取得している農地面積は1万850ha(2018年)。2013年の9937haから、ほとんど増えていません。有機JAS認証を取得していると、諸外国も自国の認証と同等と見なしてその生産物を有機食品として取り扱ってくれます。日本で作付けされている耕地面積は約400万haなので、わずか0.3%です。

 これではあまりにも少なすぎると考えたのか、農水省は「有機JAS認証を取得していないが有機農業が行われている農地」を有機農業面積に入れようとしています。この農地は第三者機関によるチェックなどを受けていないため、その農産物は海外では有機とは認められません。つまり上げ底です。それを入れると、2009年には1万6300haだったものが、2018年には2万3700haとなっており、上昇基調にあるように見えます。

出典:「みどりの食料システム戦略」中間とりまとめ参考資料 写真を拡大

 が、上げ底をしても全耕地面積の0.5%。これを、2050年までに25%、100万haにするには、単純計算で年間に3万haずつ増やしてゆくことになります。今、有機農家がやっとの思いで維持している広さ分よりもさらに広い面積をこれから毎年、増やしてゆかないと、目標達成できないのです。

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