2024年12月3日(火)

食の安全 常識・非常識

2020年9月22日

(Kiwis/gettyimages)

 中国で冷凍食品から新型コロナウイルスが検出されたというニュースが8月に流れ、食品で感染するのでは、という不安が再燃しているようです。9月14日には、サンドイッチを製造する食品工場でクラスター発生が確認され、「サンドイッチは回収しなくてよいの?」と疑問を抱く人も出てきました。

 世界保健機関(WHO)は「新型コロナウイルスは、食品を介して感染が広がった例はない」などと説明していますが、「食品からはうつらない」「可能性はゼロ」と言い切らないところが、不安を招いているのかもしれません。それに、これからの時期に流行するノロウイルス対策との混同も心配です。新型コロナとノロの対策は異なるのです。

 そこで、食品安全委員会で微生物のリスクを主に担当する山本茂貴委員に、新型コロナウイルスと食品の関係、ノロウイルスとの違いを整理していただきました。

ウイルスは低温には強い

やまもと・しげき 1979年東京大学農学部畜産獣医学科卒業、1981年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻修士課程修了。1988東京大学農学博士。2002年国立医薬品 食品衛生研究所食品衛生管理部長、2013年4月より東海大学海洋学部水産学科食品科学専攻教授。2017年1月より食品安全委員会委員

松永 中国で冷凍食品から新型コロナウイルスが検出されて、多くの人が驚いたようです。

山本 ウイルスは一般に低温には強いのです。冷蔵庫の温度である4℃では、数週間から数カ月不活化せず、マイナス70℃でも感染力を失わない、と言われています。新型コロナウイルスも、4℃で4〜21日間活性を維持していた、という報告があります。したがって、冷凍食品からウイルスが検出された、というのは不思議でもなんでもないです。

松永 中国ではかなりの数の冷凍食品を調べているようですが、ブラジル産の鶏肉やエクアドル産エビなどから検出したと報道されており、中国産だからウイルスが付いている、というわけではなさそうです。でも、SNSなどでは「中国産食品の輸入禁止を」などと言っている人もいます。

山本 まず、海外産は危なくて国産は安全、というような話ではない、ということは理解して欲しいですね。

松永 私がとても気になっているのは、「加熱すればウイルスは死ぬから安全」と理解している人たちがとても多い、ということです。食品からの感染には2つのルートが考えられ、それぞれ対策が異なる、ということがどうも理解されていないようです。話がごっちゃになって、さらに、ノロウイルス対策と混同されて、「食品の回収を」とか「加熱が大事」などの意見になっているようです。なので、山本先生にスパっと整理していただきたいと考えました。

「食品に付着したウイルスにより感染」の確率は低い

山本 食品を介する第1のルートは、食品の表面や容器包装に新型コロナウイルスが付着していて、そのウイルスが人の手などを介して口や鼻、目などの粘膜に入り込むというものです。第2のルートが、食品の中に新型コロナウイルスが含まれていて、消化器官の上皮粘膜に入って増殖して……というものです。

松永 では、まず第1のルートの検討からお願いします。新型コロナウイルスは、食品の表面やパッケージに付いてどの程度の期間、活性を保ち続けるのでしょうか。

山本 新型コロナウイルスについてはまだ詳しいことはわかりません。しかし、2002年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスや2012年の中東呼吸器症候群(MERS)の原因となったコロナウイルスなどで調べられていて、新型コロナウイルスもだいたい同じ程度だろうと考えられています。これらのウイルスでは、紙だと3時間〜4、5日活性を保ち、プラスチックの上だと2日〜9日、木の上は4日、というような報告があります。

松永 そうすると、食品そのものや容器包装に触った時にそこに付いていたウイルスが手にうつり、その手で口や鼻、目を触って感染、ということが起こりうるということでしょうか。

山本 その可能性がゼロとは言えません。でも、WHOの専門家は、「中国は数十万の食品包装を調べたが、検出したのはほんのわずかだった」と説明しています。

松永 ゼロではない、というところに不安が起きてしまうのですが。

山本 多くの食品工場では通常、作業着を着て頭には帽子をかぶって手袋を付け、目だけを出して作業しています。食品やその容器包装に新型コロナウイルスが付く可能性がそもそも、非常に低いです。そのうえ、その食品が箱詰めされて店に運ばれて棚に置かれ購入され、その間、ずっと空気に触れ、場合によっては紫外線も受けて……ということになります。付いたウイルスが活性を持ち続け、それに偶然触ってさらに口や鼻などの粘膜に入り込む、ということが起きるかどうか。確率ゼロではないけれど、考えにくいですよ。


新着記事

»もっと見る