2024年4月24日(水)

食の安全 常識・非常識

2020年9月22日

「新型コロナウイルスを食べて感染」はない?

松永 では、食べて感染という第2のルートはどうですか? ノロウイルスを連想して不安になる人がいます。

山本 こちらは第1ルートよりももっと、起こりにくいと思います。新型コロナウイルスは、一番外側にエンベロープという膜を持っています。エンベロープがあると粘膜にある特定の細胞に付きやすく増殖しやすいと考えられています。しかし、エンベロープは酸性の液に浸ると壊れやすく、エンベロープを持つウイルスは胃酸により感染力を失ってしまいます。食品中にもし新型コロナウイルスがあったとしても、胃酸に耐えられないでしょう。

松永 ノロウイルスは異なるのですか?

山本 ノロウイルスはエンベロープを持っておらず、たんぱく質がむき出しになっています。たんぱく質は酸に強い。だから、ノロウイルスを含む食品が口から入って消化されても、胃酸をくぐり抜けて小腸に到達して食中毒を引き起こします。

松永 エンベロープがあるかないかが、ポイントですね。

山本 もう少し詳しく説明すると、胃酸はpH(ペーハー)が2ぐらいです。pHは、数字が小さいほど酸性度が高くなっています。中性はpH7です。食品が胃の中に入ると酸が少し薄まりますが、それでも胃の中のpHは4〜6程度だと言われています。エンベロープのあるウイルスはpH5〜9で安定的で酸には弱いので、新型コロナウイルスは仮に口から食べたとしても、胃の中で胃酸に触れてエンベロープが壊れ活性を失い、消化管粘膜に行き着くことができないだろう、と考えられています。これに対して、ノロウイルスはpH3にも耐える、と報告されていますので、ノロウイルスを多く含む食品を食べると、そのうちの一部は胃酸をくぐり抜け小腸へ、となります。

松永 なるほど。その結果、ノロウイルスは食中毒を引き起こし、新型コロナウイルスは食中毒には至らない、と考えられているわけですね。

マスクや三密防止、手洗いが重要

山本 新型コロナウイルスに感染して下痢などの消化管症状が起きる人もいます。小腸粘膜にウイルスが入って増殖しているわけです。これは、新型コロナウイルスが肺で増えて血管を通して広がり消化管にも到達したため、と考えられています。でも、肺から回った、ということを確認した、という報告もまだありません。そのため、食品を食べて、というルートを完全否定はできない。

松永 だから、WHOや日本の厚労省は「食品からは感染しない」と断言せずに、「感染の根拠がない、事例がない」というような持って回った言い方をするのですね。科学的ではあるのでしょうが、わかりにくいです。結局、第1のルートも第2のルートも可能性はゼロ、とはだれも断言できないけれど、起きる確率は著しく低く、とくに第2の食中毒ルートは心配しなくてよい、ということでしょうか。

山本 WHOは、食品による感染を恐れるべきではない、と説明しています。私も、同意しますね。感染した人と濃厚接触してウイルスがその人から直接付いたり、新型コロナウイルスをたくさん含んだ飛沫を浴びて吸い込んだりする方が、多くのウイルスを体に取り込んでしまう。そちらの方が機会も多くリスクがはるかに高いのだから、しっかり防御すべきです。

松永 ということは、感染を避けるのに大切なのは、やはり手洗い、マスク、人との距離をとるなどですね。

山本 ウイルスが食品に付いているかも、とどうしても気になる人は、食品を触った後にはすぐに手を洗ってウイルスを除去したらいいんですよ。

松永 しつこいようですが、念のためにお尋ねします。スーパーマーケットで、野菜や果物など触ってひっくり返して選ぶ、というのを無意識にやっている人が少なくない。実は多くの人が「あの人の手からウイルスがこの野菜にうつっているのでは?」なんて考えて、買ってきた食品に不安を持っています。今でも、家に着いたら消毒液で全部拭く、という人もいます。その作業、必要ですか?

山本 そこまでは必要ないと思いますよ。それらに触った手で目や鼻を触らないようにして、帰宅したらすぐに手を洗いましょう。野菜や果物は念入りに洗ってから食べる、という通常の管理で問題ないと思います。ほかの食中毒を防ぐ意味からも、しっかりと洗ってください。


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