食の安全 常識・非常識

2020年9月22日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

新型コロナとノロウイルスの違いを理解する

松永 さて、これからの時期は新型コロナウイルスとノロウイルスの両方に注意が必要になってきますので、対策の違いをお聞きします。

山本 2つのウイルスは、先ほど申し上げたように胃酸への強さが異なります。そして、熱への強さも少し違います。ノロウイルスは「85〜90℃で90秒以上加熱」すると、感染力を失うとされています。一方、新型コロナウイルスは、「70℃以上で一定時間」となっています。新型コロナウイルスの方が少し熱に弱いようです。

松永 消毒できる薬剤にも違いがありますね。

山本 新型コロナウイルスはエンベロープがあるので、エンベロープを壊すアルコールや界面活性剤(石けん、洗剤など)がよく効きます。もちろん、次亜塩素酸ナトリウム溶液(家庭では、漂白剤を薄めて作る)も効果があります。一方、ノロウイルスはエンベロープがないので実は、アルコールや界面活性剤には強い。つまり、これらは効きません。ノロウイルスを消毒するには、次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いなければなりません※。

松永 つまり、今、アルコールで消毒を十分にしているから、ノロウイルスもこれで撃退、と考えてはいけないわけですね。

山本 ノロウイルスの感染経路を理解すると、対策もわかりやすいでしょう。ノロウイルスは人の体の中で増殖しますが、食品中やその表面で増えることはできません。人が排出したものが海の中で二枚貝の体内に入ったり、感染者が調理にたずさわってノロウイルスが食品に付いたりすると、それらを食べた人の体内でノロウイルスが増殖して症状が出ます。また、ドアやトイレなどによる接触感染、患者が排出したウイルスが飛ぶ飛沫感染もあります。したがって、ノロウイルス対策は、食品をしっかりと加熱してウイルスを不活化してから食べること/感染者に調理させないこと/感染者は自覚症状がない場合も多いので、だれもが調理したり食事をしたりする前にしっかりと手洗いをして、ノロウイルスを口にしないこと、ウイルスが付いたモノは消毒し、吐物等は処分…………などとなるわけです。

出典:精講:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル〜ノロウイルス〜 写真を拡大

松永 なるほど。感染経路が新型コロナより多いのですね。

※ 次亜塩素酸ナトリウム溶液は、新型コロナウイルス対策でモノを拭く場合には濃度0.05%溶液(500ppm)がよい、とされている。ノロウイルス対策では、用途により200ppm〜1000ppmの溶液を使い分ける。詳しくは、食品安全委員会の「ノロウイルスの消毒方法」で。

ノロウイルスは、数十日間は感染力あり

山本 ノロウイルスは乾燥にも強いんですよ。ノロウイルスが、たとえばドアノブなどに付いてどれぐらい感染力を維持できるか、知っていますか?

松永 新型コロナウイルスだとせいぜい数日間、という話でしたが……

山本 ノロウイルスは数十日間活性を保つ、という報告もあります。この点も、新型コロナとの大きな違いですね。そして、アルコールや界面活性剤は効きません。感染者がドアノブや家具などに触ってウイルスが付くと、長期間、感染力を保っています。また、感染者の嘔吐したものや糞便にはノロウイルスが大量に混じっていて、乾燥して舞い上がり他の人の口へ、という感染ルートも確認されています。だから、ドアノブや家具は次亜塩素酸ナトリウム溶液で拭き、汚れた衣服やシーツはビニール袋に密封して処分したり、洗ったらさらに次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒したりするなど、厳重な対応が必要です。

松永 こうしてみると、ノロウイルスはエンベロープを持たないために胃酸をくぐり抜け、熱にも強くアルコールや界面活性剤は効かない。かなり強力なウイルスですね。これまで新型コロナウイルスばかり気にしていたけれど、今度はノロが怖くなった……という人も多いかもしれません。

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