2024年12月12日(木)

食の安全 常識・非常識

2020年5月13日

 新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が、5月末まで延長されました。多くの子どもたちが既に2カ月、給食を食べていません。保護者は食事に頭を悩ませているのですが、それがさらに1カ月近く延びる地域が出てきます。子どもたちの栄養状態は大丈夫でしょうか?

佐々木敏・東京大学大学院医学系研究科教授(公共健康医学専攻 社会予防疫学分野、M.D., Ph.D.)
1981年京都大学工学部卒業、1989年大阪大学医学部卒業、1994年同大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。国立がん研究センター研究所、国立健康・栄養研究所などを経て2007年より現職。 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」の策定に尽力し、新型コロナウイルスパンデミックの前は、全国での説明に奔走していた。「月刊 栄養と料理」(女子栄養大学出版部)で長年連載し、栄養士や一般市民向けの情報提供にも務めている。 『わかりやすいEBNと栄養疫学』(同文書院)、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する』(女子栄養大学出版部、twitterあり)など著書多数。(写真は2018年7月、監物南美さん撮影)

 「わずか2~3カ月だし、たいした影響が出るはずがない。心配しすぎだ」と考えたそこのあなた、思い込みは禁物です。実は、東京大学の研究チームが2014年、小中学校の子どもたちの平日と休日の食生活を調べ比較しているのです。学校給食のない休日は、栄養摂取の状況がかなり悪いことがわかっています。

 そこで、この研究を行った東京大学大学院医学系研究科の佐々木敏教授に、メールでインタビューしました。佐々木教授は、日本の栄養学の第一人者で、医師でもあります。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が長引く中で、子どもたちの健康、そして食事を準備する保護者の方々の心労・不安を、とても心配しています。私たちは、子どもたちの食事と健康をどう守ったらよいのか、アドバイスと提言をいただきました。

学校給食が子どもたちの食を支えてきた

松永:本当は、新型コロナウイルス感染症に効くという触れ込みの食品についてご意見をお聞きしたいと佐々木先生にご連絡したのですが、「それも大事だけれど、こちらに社会はもっと注目すべきだよ」と言われたのが、子どもたちの食事問題でした。

佐々木:2014年秋に日本の全国12の県の小中学校の子どもたち、900人あまりの食事摂取調査をしました。当時の同僚の朝倉敬子さん(現東邦大学准教授)が論文発表しています。学校給食がある平日2日間とない休日1日間について、家や学校で食べたものをすべて記録してもらい (半秤量式食事記録法)、まとめました。その結果、学校給食がある日とない日で栄養摂取量に違いがあり、給食のない休日が悪かったのです。

松永:どのように悪かったのですか? 

小中学生の栄養素摂取状態:給食のある平日とない休日の違い
全国12の県の小学校3年生と5年生、中学2年生の合計1190人のうち、3日間の半秤量式食事記録を提出してくれた910人のデータを解析した。2014年秋の調査。 休日は、カルシウム、鉄、ビタミンC、食物繊維、カリウムが不足する子どもが多く、食塩は平日、休日共に取りすぎの子どもが多い 出典:「月刊 栄養と料理」2017年8月号
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佐々木:日本人が摂取することが望ましいエネルギーと栄養素の量として、「日本人の食事摂取基準」が国により示されています。そこで、食事摂取基準と比較しました。その結果、基準を満たさない栄養素がかなり多くあり、しかも休日の方が深刻でした。

 右のグラフを見てください。基準を守れていない子どもたちの割合が休日、増えていることがわかります。とくにカルシウムは平日が33%なのに比べ休日は76%で、平日に比べ43%も増えています。カリウムは平日の17%に対して休日は51%で34%増です。

松永:2つの栄養素の摂取が、休日は不足している、ということですか?

佐々木:そのとおりです。しかし、「基準を守れていない」というと、世の中の人は「足りない」のほうを気にしがちですが、「取りすぎ」もあります。取りすぎも同じくらい不安になってもらいたいですね。このグラフでの「守れていない割合」は、不足している子どもと取りすぎているこどもの両方を含んでいます。

 カルシウム、カリウムは不足しがちな栄養素です。一方、食塩は、平日、休日共に、基準を守れていない割合が約9割に上っており、これは取りすぎが原因です。


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