松永:なるほど。それはおいしそう。取れないのだったらサプリメントで補う、というやり方はどうですか? 今、生協への注文がふだんの倍ぐらいになっているそうですが、生協ですら、子ども用のサプリメントを売っています。
佐々木:栄養素Xが足りていない人がサプリメントXを取るのは意味があり、お勧めします。しかし、栄養素Xが足りていないかどうかわからない人がサプリメントXを取ることにどれくらい意味があるでしょうか? サプリメントで補うか否かを考える前に、わが子の栄養素Xは本当に足りていないのだろうか? 親なら先にそちらを心配してあげていただきたいです。
松永:サプリメントは、簡単にかなりの量を取れます。過剰摂取の害が出やすい栄養素もありますので、親の自己判断で子どもに与える、というのは私なら怖くてできないです。
今こそ、子どもたちの食事記録を
松永:最後に、社会に提言したいことがあるそうですね。
佐々木:先ほど、「子ども一人一人の栄養状態を把握するのは、非常に難しい」と言いましたね。それでよいのでしょうか? 今、「子どもたちは何をどれだけ食べ、それは栄養としてだいじょうぶか?」を急いで調べる必要があるのではないでしょうか? 食事・栄養の過不足の問題はすぐには表面化しないので、緊急性は乏しいように見えます。しかし、パンデミックが長期化すると、終息した後に、じわじわと表面化しますよ。「子どもたちは今、何をどれだけ食べているのだろう?」ということがわかっていないと、次の非常時にも対応できないです。データをきちんととっておくべきではないでしょうか。
松永:なるほど。それができるのなら、やってほしい。調査してほしいです。でも、大変そう。調査には大勢の方々が関わらなければならないのに、今は非常時で、どなたも余力がなくて苦労しそうです。
佐々木:ありがとうございます。でも、本当は、調査は「余力」で行うものではなく、それ以上にたいせつなものだと思うのです。調査結果は多くの場合、「今」の役には立ちません。「次(未来)」の非常時の役に立つのです。今回、「Stay for me [myself]」ではなく、「Stay for you [others]」が提唱されています。「自分の感染予防」だけを考える人間は利己主義です。「他人に移さない」行動ができて一人前です。望むらくは、未来の社会のことまで思いやれる人間でありたいものです。この非常時に、「未来の非常時のために、今の記録を遺しておかねば、未来の人が困るだろう。」と考えられるおとな社会に私たちがなれたらいいなと思っているのです。
松永:先生がすでに調査計画を検討中、ということですね。
佐々木:未来遺産とするものですが、残念なことに調査費用がありません。調査のために働く人(調査をする側の人)はボランティアを募らねばなりません。もしも、調査のために働いて、とか、食事記録をつけて、という連絡が届いたら、ぜひ、未来遺産づくりにご協力いただきたいと思っています。
松永:調査費用が緊急に、国、あるいは公益財団法人などから出るべき話だと思います。どうもありがとうございました。先生は、「月刊 栄養と料理」(女子栄養大学出版部)で「一枚の図からはじめるEBN 佐々木敏がズバリ読む栄養データ」を連載されており、新型コロナウイルス感染症に対応する食生活や情報の読み解き方について、5月9日に発売された2020年6月号と6月発売の7月号で解説される予定です。また、5月22日(金)18:30~20:00には、食生活ジャーナリストの会によるオンライン会議で、感染症予防が期待されている食品・栄養素とその情報の読み解き方についてお話しをされるそうです。
Asakura K, Sasaki S. School lunches in Japan: their contribution to healthier nutrient intake among elementary and junior high school children. Public Health Nutr. 2017; 20(9): 1523-33.
https://www.cambridge.org/core/journals/public-health-nutrition/article/school-lunches-in-japan-their-contribution-to-healthier-nutrient-intake-among-elementaryschool-and-junior-highschool-children/FBF24BF92586B4085E198E18B6F03A10
日本語要約
http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/publication/japanese/19110_J3916.pdf
女子栄養大学出版部「月刊 栄養と料理」2017年8月号
https://eiyo21.com/nc/
日本人の食事摂取基準2020年版
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
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