栄養学から考える「食と健康」

2018年9月3日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 食品に関する情報があふれている。テレビでは料理研究家が「この食品は○○がいっぱい。夏バテに効きます」などと紹介し、SNSには「××で痩せました」というたぐいの話が大量に書き込まれている。がんなどの病気を克服する食事を医師が指南している。

 これらの情報をどこまで信じてよいのか? 私たちはどのような食生活を送るべきか。東京大学大学院医学系研究科の佐々木敏教授に話を聞いた。佐々木教授の専門は栄養疫学。人が日常生活の中で自主的に食べている食べ物の種類や量を調べたり、食事の内容を意図的に変えてもらい、体への影響を調べたりする学問だ。日本の栄養学の専門家に医師はほとんどいないのだが、数少ない医師の一人で臨床経験もあり、現在は日本人の食生活の実態を第一線で研究し論文として世界へ発表し続けている。2012 年から14年まで世界保健機関(WHO)の栄養ガイダンス専門家会議のメンバーも務めた。日本の栄養学の第一人者である。

インタビュアー:科学ジャーナリスト 松永和紀

佐々木敏・東京大学大学院医学系研究科教授(公共健康医学専攻 疫学保健学講座 社会予防疫学分野、M.D., Ph.D.)
1981年京都大学工学部卒業、1989年大阪大学医学部卒業、1994年同大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。国立がん研究センター研究所、国立健康・栄養研究所などを経て2007年より現職。
『わかりやすいEBNと栄養疫学』(同文書院)、『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』(女子栄養大学出版部)など著書多数。2018年2月、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する』(同)を出版した。

「夏バテに豚しゃぶサラダ」はナゾだらけ

松永:いきなり、なのですが、夏バテで苦しいです。先日、テレビを見ていたら、「夏バテ防止に」と豚肉料理を紹介していました。豚肉に多く含まれるビタミンB1は疲労回復によいとか。

佐々木敏先生(撮影:監物南美)

佐々木:夏バテは、慢性疲労の一種だと考えられますが、慢性疲労に栄養がどのように関わっているのか、実はまだ明らかにされていません。豚肉はビタミンB1を豊富に含んでいます。それは事実。しかし、慢性疲労とビタミンB1の関連について科学的に調べた研究はごくわずかしかなく、はっきりしたことはわかりません。なぜ「夏バテに豚肉・ビタミンB1」がこんなに世の中に広まったのか、ナゾです。

松永:インターネットで検索しても、夏バテと豚肉を結びつける情報は大量に出てきます。日本人の常識ですよ。それがウソなんですか?

佐々木:ウソというよりも、なにかを言う科学的根拠(エビデンス)がないです。蒸し暑さで食欲が減退しがちなので、なんとか食べて欲しい、という思いが、豚肉がよい、という話になったのかもしれません。ぼくは、食事に神経質になりすぎるより、朝のラジオ体操でさわやかに目覚めて、午後は軽くシェスタ(午睡)を決め込む方が賢いと思います。

 ほかにも、今や常識、というような情報だけど、よくよく調べればおかしいというものはたくさんありますよ。たとえば、野菜先食べです。あれは、研究結果が極端に単純化されています。

松永:糖尿病を防ぐために野菜を先に食べなさい、という説ですね。病院でも医師が患者に指導している食事法です。

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