2024年11月22日(金)

栄養学から考える「食と健康」

2018年9月3日

松永:ということは、野菜先食べには意味がない? 

佐々木:そうではありません。現時点では、野菜を主食よりも先に食べるのは「有望な選択肢の一つ」くらいに理解しておきたいところです。

 豚カツに添えられた千切りキャベツ。野菜を先に食べる、というルールにしておけば、野菜の摂取量は確実に増え、主食の食べ過ぎを防げるというおまけもつきそうです。さらに、しっかり噛まないと飲み込めない野菜を多く食べれば、食べる速さが遅くなるでしょう。しっかり噛む、というのも大事。速食いの人はゆっくり食べる人よりも糖尿病に2倍もかかりやすい、とした報告もあります。

「インスタ映え」と同じ。食情報も盛ってある

松永:結局、野菜を先に食べるだけでなく、その結果生じること、野菜をたくさん食べるとか、ご飯を食べる量が減るとかしっかり噛んで食事をするとか、付随して生じることもひっくるめれば、野菜先食べが良いかも、ということですね。

佐々木:そうです。ただし、これらは昔、給食などで習った「三角食べ」でも達成できそうだと思いませんか。三角食べは、主食、主菜、副菜を順に少しずつ食べる食べ方。口の中を空にして次の食べ物を食べるのでなく、両者を口の中で混ぜ合わせて味の広がりを楽しむ「口中調味」を行うもので、日本の食べ方の特徴だそうです。三角食べは、一度に口に入れる量がわずかで、大量に頬張ったり噛まずに飲み下したりできない、というのが大切なポイントです。

 ぼくは、食事を体のためのガソリンやオイル、または薬と考えている人や食事にできるだけ時間をかけたくない人には野菜先食べを、そうではない人には三角食べ口内調味を勧めます。

松永:普通の人は論文に目を通すことなどできませんから、「野菜先食べがよい」と言われると飛びついて、定食に付くごく少量のサラダを先に食べて安心して、ご飯や生姜焼きをかっこんで、健康によいことをしているつもりかも。でも、それでは意味がないんですね。

佐々木:実は、論文を読んで「今の流行、おかしいですよ。そんな単純な話じゃない」と言ってきたのは、ぼくの研究室に所属する大学院生でした。流行には要注意です。話が単純化されて盛ってあります。最近、インスタ映えとよく言うじゃありませんか。インスタグラムで目立つおいしそうな料理の写真にするために、中央を盛って現実にはあり得ないような形にして写真を撮る。あれが、情報においても行われているわけです。

低糖質ダイエット、プリン体ゼロを信じますか?

松永:ほかにどんな盛った情報がありますか?

佐々木:低糖質ダイエットで痩せる、というのもその一例。低糖質にする食事法とバランスよく食べる方法、低脂質の食事法の三つの効果を調べる研究結果を集めまとめて解析(メタ・アナリシス)した結果では、三つとも痩せています。低糖質だからことさらに痩せる、というわけではありません。バランスに比べて、低糖質と低脂質では少し効果が大きいように見えますが、95%信頼区間を考慮すれば、あえてとり上げるほどの違いではない、と見るべきでしょう。

図3 3種類のダイエット法による体重の変化(平均値とその95%信頼区間)
低糖質ダイエットは、炭水化物が全エネルギー摂取の40%以下、脂質は30〜55% バランスダイエットは、炭水化物がおよそ55〜60%、脂質は21〜30% 低脂質ダイエットは、炭水化物がおよそ60%、脂質は20%以下
(出典:論文3のデータより作図)

 プリン体ゼロのビールもそうでしょう。体内でプリン体から尿酸が作られ血中濃度が上がり痛風になる。だからプリン体ゼロのビールを、となる。単純な因果推論が展開されています。でも、日本人男性3300人の酒の摂取量を調べ、その後6年間の高尿酸血症の発症状況を調べたところ、 プリン体をたっぷり含むビールを飲んでいた人も日本酒を飲んでいた人も、飲んでいない人に比べて相対リスクは同じように高かった。日本酒にはプリン体はごくわずかしか含まれていないにもかかわらずです。

 尿酸は、ビールから摂取するだけではなく体内でほかの物質から合成されます。アルコールはその合成を促進させるので、主犯はアルコール。ビールの中のプリン体は共犯の一人でしかないのです。

松永:ならば、プリン体ゼロのビールで痛風予防なんて、とんでもない誤解だということになります。ビールを作る企業は研究開発力は高く情報もよく収集していますので、そうしたことをわかっていてプリン体ゼロのアルコール飲料を売っているのだと思います。いやになります。


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