2024年4月26日(金)

栄養学から考える「食と健康」

2018年9月3日

盛った情報が社会に氾濫する理由は……

松永:人は、こうしたら健康に近づく、という話を聞きたがります。それがふだんの食事を少し変える程度でよければ、とてもうれしい。企業は、人が喜ぶような情報や商品の提供をすれば売り上げに結びつくから、そういう方向性に走ってゆく。広告だけでなく、テレビや新聞でも「夏バテ防止にはこの食材」「食べる点滴」などと、論文をきちんと調べていればとても言えないような「これさえ食べれば」的な情報が流されます。記者がなにか意図しているわけではなく、とにかく勉強不足、取材不足で、企業やその一部の研究者の言い分をそのまま流すのだと私は考えています。そうしたキャッチーな情報がある方が、メディアにとっても得なので。

佐々木:おそらくはかなりの部分は確信犯だと想像しますが、知らずにやってしまっているものもあるかもしれない。けれどもはっきりしているのは、「それはちがう」と科学的に説明できる人たちが消費者側にいないという事実です。

松永:今年2月に出されたご著書『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』と、2015年に出版された『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』(女子栄養大学出版部)で、今日ご紹介した事例だけでなく、トランス脂肪酸の健康影響や流行の肥満対策の問題点などさまざまな事例を解説しておられます。ぜひ多くの人に読んでいただきたいです。

佐々木:ところで、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』にはツイッターアカウント(https://twitter.com/dataeiyosusume)があります。

 今回お話しさせていただいたことも含めて、本の内容を少しずつ紹介しています。読者の感想や意見などもあっておもしろいと思いますので、ぜひ、のぞいてみてください。

松永:最近気になるのは、情報の単純化に乗って、「良い食品」「悪い食品」と一刀両断する言い方を、医療関係者までもが当たり前にするようになってきていることです。その際に「エビデンスがあります」と言われます。

佐々木:食品には多様な成分が入っています。たとえば、牛乳の中には脂質もカルシウムもタンパク質も入っています。そのことを知っていれば、「良い食品、悪い食品」という考え方が成立しないのは自明です。自分が実際にその食品をどのくらい摂取しているのかも知らず、したがって、その食品が自分にとってどの程度「良かったり、悪かったりするのか」も知らずに、食品を良いとか悪いに分類することはできません。その食品が良いか悪いかは自分との関係性において決まるのです。食品がかわいそうだと思います。

 「良い食品、悪い食品」という分類は、日本人が昔から行ってきたことなんです。戦後、米を食べたらバカになるとか、牛乳は完全食品だとか、言われてきたではありませんか。発酵食品が良い、というような言い方も、意味がわかりません。最近の流行も、日本人が持つクラシカルな「食品は善悪に分けられる」という意識、思考法を踏襲したに過ぎず、それに「エビデンス」という言葉を付けているだけ、と考えれば、なかなか興味深いです。

松永:次回、「エビデンスに基づく良い食品、悪い食品」の問題点をお聞きします。

(図表提供:女子栄養大学出版部)

*第2回はこちら

<出典>
論文1:Imai S, et al. Effect of eating vegetables before carbohydrates on glucose excursions in patients with type 2 diabetes. J Clin Biochem Nutr 2014;54: 7–11
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3882489/

論文2:Imai S, et al. A simple meal plan of ‘eating vegetables before carbohydrate’ was more effective for achieving glycemic control than an exchange–based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes. Asia Pac J Clin Nutr 2011;20:161-168
http://apjcn.nhri.org.tw/server/APJCN/20/2/161.pdf

論文3:Johnston BC, et al. Comparison of Weight Loss Among Named Diet Programs in Overweight and Obese Adults , JAMA. 2014;312:923-933.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1900510

 

  
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