
4月24日、ドナルド・トランプ米大統領は深海鉱業振興を目的とした大統領令に署名した。この署名は非公開で行われたが、その背景には明確な戦略的意図がある。すなわち、中国によるレアメタル、とりわけレアアース7種(ディスプロシウム、テルビウム、ネオジム、イットリウム、ガドリニウム、ルテチウム、スカンジウム)の輸出禁止への対応策である。
米国はこれら希少元素の供給において中国に大きく依存しており、国家安全保障に直結する鉱物資源の確保は、軍事・産業基盤の中核を成す。
ホワイトハウスによると、米国の排他的経済水域には10億トンを超える多金属団塊が存在し、マンガン、ニッケル、銅といった鉱物が豊富に含まれている。大統領令は商務長官に対し、60日以内に国際水域での採掘ライセンス発行手続きを迅速化するよう求め、併せて国内の鉱物処理能力の強化も命じている。
政権高官の試算によれば、この新たな資源政策により米国のGDPは10年間で3000億ドル押し上げられ、10万人の新規雇用が創出される見込みである。
他方、環境保護団体からは批判の声も上がっており、グリーンピースのアーロ・ヘンプヒル氏は、深海という人類共通の遺産を一企業の利益のために破壊することへの懸念を表明した。
しかし、トランプ政権はこれを経済的・軍事的自立への布石と位置づけており、3月の国内鉱物生産増強令に続く国家戦略の一環である。資源安全保障という観点から見れば、米国の深海資源開発は今後一層の加速が予測される。
中国のレアアース輸出禁止とその戦略的影響
F35に400キロのレアアース
中国によるレアアース輸出の禁止措置は、単なる貿易戦争の一環ではなく、戦略的覇権争いにおける決定的な一手である。世界にはレアアースが広く分布しているものの、その実効的支配において中国の存在は圧倒的である。採掘シェアは70%以上、精錬能力に至っては世界の90%以上を占める。この技術的インフラの蓄積こそが、資源覇権における中国の真の力である。
特に、ディスプロシウム(Dy)はジェットエンジンの熱耐性に不可欠であり、イットリウム(Y)は高周波レーダーの構成要素である。これらが欠如すれば、次世代戦闘機「F47」のプログラムにおいて米国は決定的な技術的遅れをとることになる。
さらにF35には、1機あたり約400キロのレアアースが必要とされる。当然、開発がスタートしたF47にへの影響も考えられるだろう。また、潜水艦1隻につき約4.2トンのレアアースが必要とされる。これほどの資源依存を背景に、アメリカが中国の供給停止に強い危機感を抱くのは当然である。