2025年4月6日(日)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2025年3月4日

(Anton Petrus/gettyimages)

 ウクライナと米国の間で進められている鉱物資源協定は、地政学的な戦略や経済的利益の観点から非常に重要な意味を持っている。しかし、この協定にはさまざまな問題点が存在し、それを解決するための前向きなアプローチが求められている。

 ここでは、私の経験を踏まえ、ウクライナのレアメタルやレアアース資源についての理解を深め、協定の意義と課題を明らかにする。

 私がロシアを初めて訪れたのは1972年。それ以来、旧ソ連の国々を巡る機会を得た。1991年のソ連崩壊以降は、ウクライナや中央アジアを頻繁に訪問し、レアメタル資源の確保を目的にした調査を行ってきた。

 その経験から、30年前のウクライナのレアメタルやレアアース資源の賦存量はそれほど多くなく、ウクライナ一国が旧ソ連全体に対して供給できる量は限られていると認識した。確かにウクライナは旧ソ連の中ではレアアースの分離技術において進んでいたが、資源の分布や量においては十分とは言えなかった。

 旧ソ連において最大のレアアース資源は、ロシアのコラ半島に分布するローパライトからの副産物である。このローパライトはチタンやタンタル、ニオブ資源を含んでおり、その中にレアアースが含まれている。

なぜ、ウクライナのレアアースには経済合理性がないのか?

 これらの資源はウラル地方のソリカムスクに供給され、ウラン・トリウムを分離して水酸化レアアースとしてエストニアやカザフスタンに送られていた。しかし、ロシアにおけるレアアース産業は、中国の圧倒的な資源量の影響を受け、経済的合理性を欠き、実際の利用は減少している。

 このような背景から、米国がウクライナとの鉱物資源協定を結ぶことは、実質的には意味が薄いと考えざるを得ない。トランプ大統領とゼレンスキー大統領が提唱する地下資源の権益共有は、特にレアアースに関してはあまり意味を持たないと考えられる。

 もちろん、ウクライナには鉄鉱石やチタン、ウラン、マンガン、クロム、リチウムといった有用なレアメタル資源も存在するが、地下資源を担保にして武器を供給するという考え方には、現在のところ経済的合理性が欠けている。

 現状のウクライナにおける地下資源の情報は30年前とは変わっているかもしれない。ただ、今回の資源協定は、トランプ大統領が米国民を納得させるためにウクライナの停戦を実現しつつ、米国としても資源の恩恵を得ようとしているように見受けられる。

 ウクライナの地下資源に関する情報を詳細に把握しているのはロシアであり、その情報は比較的正確であると考えられる。したがって、ウクライナの地下資源に関する再調査が必要であると感じる。

笑いが止まらないプーチン

 プーチン大統領とロシアの国益からの視点についても検討する必要がある。今回のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の「ちゃぶ台返し」を見て、プーチン大統領は笑いが止まらないだろう。交渉ごとは「三方よし」でなければならず、この言葉の言い換え表現には「相互利益」や「ギブアンドテイク」が含まれる。今こそ、石破首相の出番であるべきではないか。彼の独特の発想が、世界の平和をつくる一助となるかもしれない。

 トランプ大統領とゼレンスキー大統領の討論や感情的な議論は、メディアへのアピールの一部に過ぎず、真にロシアとウクライナの戦争を終結させる意志があるのかどうかは疑問である。プーチン大統領にとって、このような混乱は逆にロシアの立場を強化する材料になりかねない。

 我々日本国民としては、平和を希求する立場からゼレンスキー大統領とトランプ大統領との再交渉を行い、プーチン大統領も落としどころを模索して広い地球規模の平和を望むべきである。三方が協力し合う結論を導くことが重要である。

 以上のように、短期的な視点における鉱物資源協定には限界がある一方で、長期的な解決策も考慮する必要がある。米国がウクライナとの協定を進める背景には、ロシアへの対抗という地政学的目的があるが、この戦略だけでは協定の成功は難しい。

 ウクライナを支援することで、米国はロシアの影響力を抑えつつ、NATOやEUとの連携を強化できる。これを明確にすることで、米国民や国際社会に協定の重要性を理解してもらう必要がある。


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