2025年12月13日(土)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年12月1日

 オランダの半導体メーカー・ネクスペリアの中国工場からの製品輸出が一時禁止された問題は、ドイツの自動車産業の中国依存度の高さを暴露した。事態は収束の方向に向かっているが、一時は多くの企業が生産停止のリスクに怯えた。

ドイツの大手自動車メーカーも、ネクスペリア半導体の輸出規制に強い懸念を抱いた。写真は、自動車見本市IAAモビリティにおける、メルセデス・ベンツの展示場(筆者撮影)

自動車生産に不可欠な「産業のコメ」

 10月4日、中国商務省が行った発表は、ドイツの自動車メーカーや部品サプライヤーの経営者たちに衝撃を与えた。中国政府が、オランダの半導体大手ネクスペリア(本社:ナイメーヘン)の中国工場からの半導体の輸出を禁じたからだ。

 ネクスペリアは、自動車の生産に欠かせないディスクリート半導体を毎年約1100億個生産している。その内、約50%が自動車メーカーや部品サプライヤーに供給されている。年間売上高は約20億ユーロ(3600億円・1ユーロ=180円換算)と推定されている。

 ディスクリート半導体は、1個の半導体が単一の機能を持つ、標準的半導体だ。安価な部品だが、車のフロントグラスに落ちた雨滴を感知してワイパーを作動させる機能や、エアバッグ、運転補助機能などの電気系統に欠かせない。1台の車にネクスペリアの半導体が約500個も使われているケースもある。

 ネクスペリアはドイツのハンブルク工場でウエハー(半導体の生産に使われる円盤状の薄い基盤)を製造して、中国・東莞市の工場に輸出。中国工場で半導体を組立て、欧州、アジア、米国の自動車メーカーや部品サプライヤーに輸出していた。中国でパッケージングを行っているのは、人件費が欧州に比べて安いためだろう。

 ネクスペリアは元々、オランダの大手電機・電子メーカー、フィリップスの半導体部門から2006年にスピンオフされて誕生したNXP半導体という企業だった。19年には中国のウイングテック・テクノロジー(闻泰科技股份有限公司)という半導体企業が、NXPを買収した。

 ウイングテックは浙江省の嘉興市に本社を持つ企業で、中国の国営企業も部分的に資本参加している。ウイングテックの中国人の最高経営責任者(CEO)A氏が、ネクスペリアのCEOも務めていた。


新着記事

»もっと見る