ドイツの自動車業界が生産停止リスクに
中国商務省はオランダ政府の決定を「中国企業の子会社の経営への不当な介入」と見なして、10月4日に中国の工場からのネクスペリアの半導体の輸出を禁じた。これを受けて、ネクスペリアのハンブルク工場から、中国の工場へのウエハーの輸出も止まった。
フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなどドイツの自動車メーカーは対策本部を設置して情勢を監視するとともに、他社の製品でネクスペリアの半導体を代替することが可能かどうかについて、調査を開始した。欧州自動車工業会(ACEA)は、10月16日、「我々はこの事態について、深く憂慮している。ネクスペリアの半導体なしには、欧州の自動車業界は、生産が困難になる。一部のメーカー、サプライヤーでは、在庫が数週間で尽きるかもしれない」と警告した。
ドイツ自動車工業会(VDA)も10月21日、「ネクスペリアは極めて重要な半導体サプライヤーであり、供給停止が長期化した場合、将来生産停止につながる恐れもある。一刻も早く事態が解決されることを望む」という声明を発表した。VDAは10月30日には、ネクスペリアの半導体の在庫や供給能力について、業界で情報を共有するデジタル・プラットフォームを設置すると発表した。
ドイツの大手自動車部品メーカー、ロベルト・ボッシュは11月3日、「ネクスペリアの半導体の不足により、ドイツ国内の一部の工場で労働時間を短縮することを、連邦労働局に伝えた」と発表した。ドイツ企業の経営者は従業員の労働時間短縮や、工場閉鎖などを、事前に連邦労働局に通告することを義務付けられている。ドイツの大手自動車部品ZFも、一部の国内工場での労働時間短縮へ向けた準備を始めた。
ネクスペリア問題は、10月30日に米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が韓国で行った首脳会談でも、議題になった模様だ。この会談の後、中国政府は「ネクスペリアの半導体の輸出規制に例外を設ける」と発表した。実際、ドイツの一部の大手自動車メーカーや、部品のサプライヤーには、ネクスペリアの半導体が供給された。
中国政府は、オランダ政府に対して、ネクスペリアの管理権を同社に返還するよう要求していた。オランダ経済省は、11月17日から北京に代表団を送って中国政府と協議し、打開策を探った。
この結果、11月19日にはオランダ政府が中国側に歩み寄り「ネクスペリアの管理権を返還する」と発表し、事態は収束へ向けて動き出した。だが本稿を執筆している11月23日の時点では、同社の半導体の供給は、10月4日以前の状態を回復していない。
