米中貿易協議が大きく進展しようとしている。米国のラトニック商務長官は6月26日、ブルームバーグの取材に応じ、米中は合意文書に署名したと明かした。世界の自動車メーカーを混乱に陥れた中国のレアアース輸出規制が緩和される、米中貿易戦争が沈静化するとの期待が高まっている。
だが、本当に楽観できるのだろうか。中国はレアアース輸出規制制度を手放すつもりはない。さらに技術を海外に奪われないよう、「人の管理」を始めたこともわかった。レアアースという「切り札」をいつでも使えるように温存する姿勢は明らかだ。
米中の争いはどこへ向かおうとしているのか、読み解きたい。
米中貿易戦争の推移
2025年1月の第二次トランプ政権の発足とともに米中貿易戦争が始まった。まず、米国は巨額の貿易赤字や知的財産権の侵害、さらには薬物フェンタニル原料の流出問題などを理由に20%の追加関税をかけた。当初、中国側の対応は液化天然ガス(LNG)や大豆などに品目を絞った限定的な報復にとどまり、事態を悪化させずに乗り切ろうとする姿勢が見えた。
しかし、4月2日にトランプ政権が発表した「相互関税」で事態は一変する。これは全世界の国々に一律10%の関税を課し、さらに貿易赤字の大きい国には追加関税を乗せるというものだ。中国への税率は24%。フェンタニルを事由とした20%、世界すべての国に対する一律税率10%と合計すると、合計で54%もの高関税が課されることになった。
中国は即座に同率の報復関税で対抗。米国がさらに関税を釣り上げ、中国がまた報復するといった具合にエスカレートしていき、ついには米国の対中追加関税は145%、中国の対米追加関税も125%に達するという異常事態にまで陥った。
このすさまじい関税戦争は約1カ月後に大きな転換点を迎える。5月10日、11日にスイス・ジュネーブで開催された米中協議によって報復関税は停止された。現時点では30%の追加関税が発効しており、90日間期限内に新たな合意がなされない場合には24%が上乗せされることになっている。
この関税戦争の中で、中国は伝家の宝刀ともいうべき切り札を使っている。現代産業には欠かせない物質であるレアアースの輸出規制を導入したのだ。