2025年12月5日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年7月2日

米国の「切り札」

 さて、レアアースという切り札を持っている中国が圧倒的に優位なのだろうか。実はそれほど簡単な話ではない。米国側にもやはり切り札はあるからだ。たとえば半導体設計のEDA(設計自動化支援)ソフトウェアである。

 EDAは半導体の電子回路を設計するために不可欠なソフトウェアで、その市場は米国のシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、シーメンスEDA(旧メンター・グラフィックス)の3社が世界シェアのほとんどを寡占している。中国のチップ設計者はこの米国製ソフトウェアにほぼ全面的に依存しており、米国政府がこれらの企業にライセンスの輸出規制をかければ、中国の半導体開発能力は直接的な打撃を受ける。

 半導体製造装置も同様だ。最先端プロセスに不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置はオランダのASMLが独占しているが、これも米国の技術が随所に使われており、米国主導の技術封鎖によって中国は輸入できない。

 結果、中国は性能が落ちる深紫外線(DUV)装置を何度も使う「多重露光」という、コストも時間もかかる非効率な手法に頼らざるを得ない。まさに米国の技術が、中国のハイテク戦略の最大のボトルネックとなっているのだ。

 米国の「切り札」はこれだけではない。中国が国策として推進する国産旅客機「C919」の航空機エンジンは、米GEと仏サフランの合弁会社CFMインターナショナルが製造する「LEAP-1C」に依存している。

トランプ政権の「ディール」によっては、中国の国産旅客機の発着に影響を及ぼす( HuyNguyenSG/gettyimages)

 米国がこのエンジンの輸出を止めれば、C919は飛び立つことすらできない。中国が開発中の国産エンジン「CJ-1000A」はまだ試験段階で、量産化は2030年以降とみられている。

 さらに、化学産業の基盤となるエタンも中国の弱点だ。石油化学産業で重要な役割を担うエチレン製造の主要原料であるエタンの輸入において、中国は米国にほぼ100%依存している。米国が25年5月にエタンの対中輸出を国家安全保障上のリスクとみなし、ライセンス制を導入したことは、中国の石油化学産業に大きな衝撃を与えた。

 冒頭で取りあげた米中の合意では中国がレアアース輸出を再開すれば、米国側もEDA、航空機部品、エタンの輸出規制を撤回するという内容が盛り込まれたもようだ。


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